怪盗X

□怪盗の悩み
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「拓斗さん、ジャージャー麺出来ましたよ」

「んー」


名無しさんと気持ちが通じ合ってから2ヶ月経つ

最早、毎日一緒に飯を食うのが日課になり近頃はこうして仕事帰りに家に寄って、晩飯を作ってくれるようになった


だけど最近俺はあることに悩んでいる



「明日仕事休みだろ?」

「あ、はい!拓斗さんもですよね?」

「あー…明日珍しく二人とも休みだし、どっか行くか」

(っていうか合わせて有給とったんだけど)

敢えて自然な感じを努め、軽く誘うと名無しさんは嬉しそうに顔を綻ばせた


「わっ!いいですね!楽しみです!」

「どっか行きたいとこある?」

「んー…どうしよう…急に聞かれると…う〜〜〜ん…」

「何かしたいことねーのかよ」

「したいこと…えっと…んっとお〜〜〜〜…あ!そうだ!温泉に行きたいです!!」


(キタっ!!)


心の中で小さくガッツポーズを決める

しかし顔には出さず、至って自然に冷静を振る舞いながら少しだけ溜め息をついてみたりした


「は?でも連休じゃねーし泊まれねーだろ?」

「はい!でも日帰りでもいいプランがあるんですよー!今は0泊2食とかやってる旅館も結構あるんですよ?」

「へぇ…どっか行ってみたい旅館とかあんの?」

「えへへ…ちょっと遠いんですけど…」


スマホを操作して見せてくれた、落ち着いた佇まいの旅館

確かに0泊2食もやっているし、カップル向けのプランもある


「家からだと車で2時間くらいか」

「えっ?ここでいいんですか!?」

「だって行ってみたいんだろ」

「それはそうですけど…面倒くせーとか言わないんですか?いつもの決め台詞」

「…本当に言って欲しいのか、喧嘩売ってるのか、どっちだ」

「いたっ!あはは!冗談ですよ!楽しみー!!」


ピンと軽くデコピンをすると、それでも嬉しそうにえへへと笑って

明日は何を着ていこうかとか、これを食べたいだとか、はしゃぐ名無しさん


(誘って良かったな…)


スマホからカップル向けの0泊2食プランを予約して、後は明日に備えるばかり


「空きがあってよかったー!」

「ま、平日だしな。こんなもんだろ」

「でもここって温泉がすごく有名なんですよ!肌がツルツル、スベスベになるって!」

「気のせいだろ」

「またそんなこと言ってー!拓斗さんだって楽しみなくせに!」

「うるせーし…」

こんなに嬉しそうにされると、悩みなんか全部吹っ飛んで

話を聞いている内に何だか自分も本当に段々楽しみになってきた


しかし本題はここからである

これからが今の悩みにも直結する重大なところ


「あー…0泊だから早めにチェックインしないとだな…朝早く出るし…今日泊まってけば?」


慎重にかつ、敢えて自然な感じで…

すると名無しさんは顔をキョトンとさせてから、途端に顔を真っ赤にして慌てふためく


「えっと…用意とかもあるし…化粧も落とさなきゃですし…その…今日は帰ります!また今度ゆっくり!!」


ガチャガチャと見るからに動揺しながら、空いた皿を片付け始める

(やっぱダメか…)



俺の悩みとは…


付き合って2ヶ月が過ぎたのに、まだキス以上の進展がないこと


そういう雰囲気になったことは何度もあった

しかし、そうなると決まってすぐに逃げられ
無理強いして嫌われたくない気持ちが強いばかりにそれ以上踏み込めないでいる


(こいつ俺のこと本当に好きなのかよ…)


流石に2ヶ月もかわされ続けると、そんなことさえ疑ってしまって

どんどん考えが嫌な方向に向かってしまっていた


「さ!明日も早いし、今日はもう帰ろうかな!」

「…送ってく」


チャリンと車のキーを握り締め、そそくさと逃げるように帰ると言い張る名無しさんを送るのだったー…


















翌日


朝早く起きた俺は自分の荷物を後部座席に投げ込むと、名無しさんのアパートに向けてアクセルを踏み込む


昨夜は何やかんや考え過ぎて、あまり眠れなかった


何だか俺が一方的に想いを寄せているようで

空回りしているような気がして


まともな恋愛など、まるで経験がない俺はこれからどうすればいいのか

どうしたら一歩先に進めるのか…


そんなことばかり考えている内に寝るのが遅くなってしまった


眠たい目を擦りながら名無しさんのアパートの前に車を止めると

俺とはえらい違いのスッキリした笑顔を浮かべて名無しさんが部屋から出てくる














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