怪盗X

□Whitedayの苦悩
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3月13日 PM 9:00


「こんばんはー!」


いつものように黒狐へ行くと、BFのメンバーがダベっていた


拓斗さんは今夜仕事場に缶詰めらしく、姿はない


「いらっしゃい名無しさんちゃん」

「今日は遅かったね〜残業?」

「うん。美術品の搬入があって…」



宙君が私のために椅子を引いてくれて、自然な流れで宙君の隣に座った



「大変だね〜疲れたでしょ?何か食べるかい?」

「あ、じゃあ…手羽先と、レモンサワーで…」

「それは酒のつまみだろーが。何か先に食わないと悪酔いするぞ」

「いたっ」


コンっと頭を柳瀬さんに小突かれて、私を挟む形で隣に座るとグイッとビールを一気に煽る


「まあ、リキ君程悪酔いする人もなかなかいないけど」

「ハハッ!それもそーだな!柳瀬はすぐ甘えん坊になるから」

「甘えん坊って…そんなわけねーだろ」

「えっ!?無自覚なんですか!?」

「やかましい」

「そういえばたっくんは?」

「あ、今日は徹夜で仕事だそうで…」

「へぇ〜…あ、そっかあ。明日ホワイトデーだもんね!」

「なるほどな」


(ホワイトデー…か)



バレンタインには拓斗さんにジャージャー麺を作ったり、手作りのケーキを焼いたりと確かに一応バレンタインはしたつもりだ


メンバーにチョコあげるときは、拗ねて大変だったっけ…



でも拓斗さんがホワイトデーに何かお返し…というのは考えにくい



というか想像がつかない




「あの…明日のホワイトデーと拓斗さんの仕事って何か関係あるんですか?」



私の質問にメンバー全員がパチクリと目を丸くさせる




「何って…そりゃあホワイトデーに何かするつもりだから今日徹夜してんだろ?」

「たっくんのことだから、何かサプライズしようと今頃頑張ってるんじゃないっ?」



(拓斗さんが…?)



いや、まさか…



拓斗さんのことだからホワイトデーなんて全く頭に無さそうな…


別にお返しが欲しくてバレンタインをしたんじゃない


素直に拓斗さんのことが好きだから



それだけでやったのだからホワイトデーのことなんて考えてなかった




(でも昔からの付き合いのメンバーが言うんだから…少しは期待してもいいのかな…?)





少しだけ期待に胸を膨らませ、レモンサワーを喉に流し込む




「明日楽しみだね〜♪」

「拓斗のホワイトデー…か。後でちゃんと聞かせろよ!」

「ま、大体の想像はつくけどね〜」

「アハハ…」




ほとんど野次馬のような皆に愛想笑いを振り撒きながら


楽しい夜は少しの期待を胸に更けていったー…

























そして14日



「お疲れ様です〜」


夕方仕事が終わり、携帯をチェックすると拓斗さんからLINEが入っていた



"黒狐にいる"



それだけ書かれた画面を見つめているとポンッと誰かに肩を叩かれる



「お疲れ様です名無しさんさんっ!」

「あ、カモノハシ君。お疲れ様」

「あの…これ!」



ズイと目の前に差し出されたのは、高級菓子店の紙袋



「ん…?どうしたの?」

「バレンタインのお返しです!今日はホワイトデーだから…」



そういえば…職場の男性社員にもチョコ配ったんだった


拓斗さんのことで頭がいっぱいで気が付かなかった…



微かに頬を赤く染めたカモノハシ君にニコリと笑いかけると有り難く紙袋を受けとる



「わざわざありがとう。大事に食べるね!」

「いえ…喜んで頂けて僕も嬉しいです!」



ルンルン気分でカモノハシ君からもらったお菓子を片手に


黒狐にいるという拓斗さんの元へ向かったー…























「いらっしゃい〜」


黒狐の戸を開けるとボスがニコニコと出迎えてくれる


チラリと店の中を見やると、拓斗さんはおろかボス以外の姿は見えない




「あれ?拓斗さん来てませんか?」

「ああ、たっくんなら2階で寝てるよ」



(そっか…昨日は徹夜だったもんね…)



「ちょっと拓斗さんのところに行ってきます」




そう言って2階へ上がると、拓斗さんは安らかな寝息を立てて2段ベッドの下に寝ていた





(熟睡してる…)




余程、疲れているのだろう

目の下にはうっすらとクマができている



(起こすのは可哀想だなあ…)




気を使って、また1階へと降りることにした私は起こさないようそっとドアを閉めた

















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