恋乱LB U

□変わらぬ想い
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先程から口が閉じる間もないくらい、喋り続ける上杉謙信にうんざりしていると、苦笑しながら俺をなだめる名無しさん


「いや君達に会うのも久しぶりで興奮しててね…幸せそうでよかったよ」


「ありがとうございます謙信様…」




ワイワイしながらも順調に進んできた俺達は、辺りが暗くなる前に今夜の宿を探すことにした




「ここでいいんじゃない」


「綺麗な宿だね…よし!ここにしよう」


「まさか宿まで同じ処にする気?」


「おや。何か都合の悪いことでも?」




(ムカつく…)




「は…早く入りましょう!お腹も空きましたし!ねっ」



俺と上杉は名無しさんに背中を押されながら、今夜の宿へと足を踏み入れた





「一応わかってるとは思うけど、部屋は別々だからね」


「それは残念。三人で川の字になって寝られると思ったのに」


「冗談」




早く二人きりになりたくて

先程から名無しさんに話を振る上杉が気に入らなくて、さっさと部屋に名無しさんを押し込めると、やっとのことで静寂が訪れる




「…大丈夫ですか才蔵さん」


「ここ最近で一番疲れた」


「…ふふっ…」


「何笑ってんの」


「いえ…才蔵さんがこんなに他人とお話するの珍しいなと思って…」



黙って見ていられるほど、俺は大人じゃない



そう言いかけて、やめた



もし本当にあの時名無しさんを上杉謙信が欲していたのなら

目の前で拐うようにして奪った自分


黙って見ていた上杉謙信


自分の方があの男より子供だと認めてしまう気がしたから



それは"負け"になると感じたから





「ねぇ…」


「んっ…才蔵さっ…ふ…」




腰に手を回して啄むような口付けを落とす俺に必死に応える名無しさん


啄むだけの口付けが段々深くなっていく

着物を脱がそうと襟に手をかけたその時ー…









「さあ、宴会だ!!」



「っ!?けっ…謙信様!?」


勢いよく離れた名無しさんは顔を真っ赤にさせて、乱れた襟元を慌てて整える




「おや、お楽しみの邪魔をしてしまったかな?」


(白々しい…)


ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた上杉に、自然と唇が弧を描く



「別に。時間はたっぷりあるから好きなだけ楽しめる」


「ほう…けど女子の体は繊細だからね。きちんと労ってあげなきゃいけないよ忍者君」


「ご心配なく」















バチバチと火花を散らす二人に、もはや止める気もなくなった


(勝手にやらせておこう…)


謙信様が持ってきてくれたお酒をチビチビと呑みながら溜め息をつく



先程から収まる気配のない静かな言い争い


一体何が気に入らないんだろう?



私から見れば、二人はとてもよく似ているー…



(だから合わないのかな?)





「おっと、忍者君の相手に忙しくて名無しさんちゃんを一人にさせてしまったね。ごめん、さあどうぞ」


私の様子に気付いた謙信様が自らお酌をしてくれる


有り難く頂戴した私は、まろやかなその味にほんのりと酔いながら更に喉の奥へと流し込んだ


「なかなかイケる口の様だね。ほら、まだたくさんあるから…」


「待て。それ以上呑んだら…」


「ふふっ…きゃはははは!」



急に笑い出した私に驚く謙信様と溜め息をつく才蔵さん


その対照的な二人が何故か面白くて、私の笑いは更に大きくなった
















「これは驚いた…笑い上戸なのかい?」


「まあね」


一体何が可笑しいのか、尚も笑い続ける名無しさんに水を飲ませると、小さなしゃっくりを始める


余程、酒が回っているのか、最早うつらうつらと船を漕ぐ名無しさん



「しゃっくりが出てしまっては、もう呑めないね。楽しい時間もそろそろ終わりかな」


ゆっくりと立ち上がり、背中を向ける上杉



「忍者君、君は変わったね。そんなにも顔が優しくなったのは名無しさんちゃんのお陰かな?」


「…何が言いたい」


「大人とは実に面倒だね。あの時意地でも名無しさんちゃんのことを俺が奪っていたなら…今この瞬間も立場が逆だったかもしれない」


「…あり得ないね」



そこでゆっくりと振り向いた上杉に薄ら笑いを浮かべ、言い放つ








「俺がこの女を逃すことは絶対にないからだ」






フッと切ない笑いを残して静かに上杉は出ていった










 




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