恋乱LB U

□書きかけの想い
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気を失うように眠ってしまった名無しさんの着物を整え、俺達の部屋へと運ぶ


額にかかった髪の毛をよけるためそっと触れる


しかし全く起きる気配のない名無しさん


愛しい気持ちが強すぎて、手加減してやれなかった自身に自嘲した




「ごめんね」





聞こえるわけがないと知りながら、耳元で囁く


俺の気持ちは名無しさんにちゃんと伝わっただろうか



こんなにも胸を占める想い


二度と会えないと思っていた幼い自分



そして大人になってから、まるで運命に導かれたようにもう一度会えた



今にして思えば俺達の出会いは必然だったんだろう


今まで愛を知らずに生きてきたのは、名無しさんから教えてもらうためだった


柄にもなくそんなことを真剣に考えるほど、この女を愛している




「あ…忘れてた」




ふと思い出し、そっと褥を抜けるとさっきまで深く愛し合っていた部屋へと向かった



机の上に置かれた書きかけの文を丁寧に折り畳み懐にしまうと愛する女の眠る部屋へと再び歩き出す




















「あ…ん…?」



眩しい光を感じて目を開けると、うっすらと才蔵さんの姿が見えた



「ねぼすけ」


「おはようございます…」



ゴシゴシと眠い目を擦りながら、ムクリと起き上がると、ちゃんと寝間着を着ていることに気付く




(才蔵さんが着せてくれたんだ…)



才蔵さんの優しさに、ほんのりと心が温かくなる



「ありがとうございます」


「何が?」


「寝間着…着せてくれたんですね」


「あぁ…お前さんが気を失ったからね。そんなに気持ちよかった?」



いたずらっ子のような笑みを浮かべた才蔵さんに、眠気が一瞬にして吹っ飛ぶ



「何なら今から昨日の続きする?」


「もう!からかわないでください!」



赤くなった顔を見られないよう、才蔵さんに背を向けると優しく後ろから抱き締められた




才蔵さんの香りがふわりと鼻をくすぐって、安心感を覚える



(…やっぱり才蔵さん大好きだなあ)



改めてそう実感する


幸せで溢れた穏やかな朝





心から愛しく感じながら、朝げの準備のため後ろ髪を引かれる思いで別れた
















(あ、そういえば…)



昨夜の書きかけの文のことが、ふと頭をよぎる



(誰かに見つかったら恥ずかしいし、早めに回収しちゃお)



そう思い足早に部屋へと向かった
 





「あれ…?」




ない


どこにもない

風に飛ばされたのかと机の周辺も隈無く、探してみたが見当たらない



「仕方ない…諦めよ…」


















屋根の上で幸村の鍛練を参加もせず眺める


いつもと同じ朝


柔らかな陽射しが眠気を誘う




するとパタパタと走って、昨夜の部屋に入っていく名無しさんが見えた



(文のことを思い出したのか)



しかし書きかけの文は俺の懐に丁寧に折り畳んでしまってある



しばらくして、しょんぼりと肩を落とし部屋を出てきた名無しさんに微笑みながら懐にしまった文を取り出した





 




"愛する才蔵さんと、ずっと一緒にいたいです"





たったそれだけが書かれた文



それを見て更に目尻が下がる





「俺もだよ…」








彼女に俺の想いはちゃんと伝わっただろうか…





そんなことを考えながら、ふと顔を上げると眩しい陽射しを感じて目を細める




雲一つ見当たらない青い空













この空の様に永遠に名無しさんと続くことを静かに祈ったー…





























End


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