恋乱LB U
□そしてまた恋をする
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最近しんとした部屋でボーッとすることが多くなった
いや、一人になることが多くなった
一緒にいるのが当たり前になっていた名無しさんはもう側にいない
するとあることに気が付いて、思わず自嘲する
(何言ってんだか…)
一人でいることが当たり前だったじゃないか
孤独こそが俺の道だと
ずっとそう思い生きてきた筈なのに
一度知ってしまったら、もう前には戻れないのだ
あの幸せな時間を味わって、包み込むような優しさに身も心も全て溶かされた俺は幼子のように手を伸ばして、それを求める
(馬鹿だね…)
「才蔵」
「…人の部屋に入るときは一声かけろって言われなかった?」
「あら、意外と常識人だったのね」
ふわりと笑う雪に軽い苛立ちを覚えながら、それを隠すことなく怒気を放つ
「限界よ」
「…何が」
言いたいことはわかっている
名無しさんが記憶をなくしたあの日から、俺は一度も任務をこなしていない
だから雪を寄越したのだろう
「貴方らしくないわね。そんなに自分のことを忘れられたのが傷付いた?」
「…………」
「彼女だって本当は忘れたかったんじゃないの?忍との恋なんて…」
「黙れ」
「お前だって何度彼女を遠ざけた?普通の人と一緒になって、そして家庭を持つことがあの子にとって一番の幸せだって…そう思ってしたことでしょう?」
畳み掛けるように一気に喋り出す雪
確かにそうだ
俺は何度も名無しさんを傷付けて…
遠ざけようとした
「いい機会じゃない。これであの子はお前とのしがらみもなくなった。思い出す前に身を引けば傷付くのは才蔵だけで済むんじゃないの?」
でも……
「俺はもう逃げない」
名無しさんの幸せを願って身を引くことが"逃げ"だと気付いたから
真正面から向き合うことが怖かった時の俺の勝手な思い違いだと知ったから
「いくらでも里の者を送るがいい。返り討ちにするだけだ」
「…そ。じゃあ今日が弟と会う最後の日かもしれないわね」
そう言い残し雪は消えた
「才蔵さん。お茶をお持ちしました」
「入って」
"入って"なんて言いながら両手が塞がっている私を気遣って、自ら戸を開けてくれる
何気ない優しさに思わず笑みが溢れた
「今日は中に餡を詰めてみました!」
才蔵さんと向かい合って座ると、盆を前に差し出す
「へぇ…随分自信満々だね」
「勿論です!才蔵さんに出すものは全部自信作ですよ!」
パクリと一つ口の中に放り込むと、才蔵さんは次々と目の前のお団子に手を伸ばす
その様子がどうしよもなく嬉しくて、顔がにやけた
「そんなに一気に食べたら喉詰まりしますよ。お茶もどうぞ」
「…ありがと」
最近、才蔵さんと過ごすこの時間が毎日の楽しみになっていた
少しでも長く一緒にいたくて、いつも多目に団子を用意するのに才蔵さんはそれをペロリと平らげる
私の中で何かが変わろうとしていた
そしてその気持ちに少しずつ気付き始めている
「御馳走様」
「あ…はい。お粗末様です。あの…味はどうでしたか…?」
そんなことわざわざ聞かなくても、空になった皿を見ればわかるのに、時間稼ぎのために訊ねる私は何てあざとい女なのだろう
「美味しかったよ」
「そうですか…良かったです!明日はもっと美味しいお団子をお持ちしますね!」
名残惜しく思いながら盆を持ち、立ち上がろうとすると才蔵さんがそっと袖を引っ張った
「もう少しここにいれば」
「え…いいんですか?」
「…駄目なら、そんなこと言わない」
「じゃあ…少しだけ…」
もう一度座り直すと才蔵さんは安心したようにフッと笑った
それを見て釣られて私も笑う
もう少し一緒にいられるんだ…
嬉しくて、幸せで心から何かが込み上げてくるのを感じた
私はこの気持ちを知っている
私は…この寡黙で優しい忍者を
好きになってしまったのだー…
「名無しさんさん!今日も才蔵さんのためにお団子作りですか?」
「はい!今日はみたらしにしようと思って…」
炊事場で作業している私に気付いた梅子さんと松子さんが、駆け寄ってくる
「よし!できた!」
*