恋乱LB U

□そしてまた恋をする
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「…お前がそこまで言うなら…わかった」



あまり納得いかないという表情のまま幸村は出ていく



俺だって本心ではない



恋仲だったってことを知れば、少しは思い出すかもしれない




けれどもし何も思い出せなかったら?


知ったせいで名無しさんが自分を責めることになってしまったら?




そう考えると、とても伝える気にはならなかった





















「名無しさんさん何を作ってるんですか?」


団子を丸める私を見つけた梅子さんが駆け寄ってくる


早速私は才蔵さんにあげるお団子を作っていた



早く才蔵さんに食べて欲しくて



いつも切ない表情で笑う才蔵さんに心から笑ってほしくて




「あ、梅子さん!実は才蔵さんにお団子を作っているんです」


「思い出したんですかっ!?」




目を思いきり見開いて梅子さんが叫ぶ





「思い出したって…何をですか?」



私の問いに梅子さんはガックリと肩を落とした、



「いえ…何でもないです。気にしないで下さい!きっと才蔵さん喜んでくれますよ!」



そう言い残してパタパタと足早に出ていく





(思い出したって…私何か忘れてるっけ?)




団子を丸めながら意味深な梅子さんの言葉を考えてみたが、私には何のことかさっぱりわからなかった









「できた!」



(早速才蔵さんに食べてもらおう!)



綺麗に盛り付けた団子と温かいお茶をお盆の上に乗せ、才蔵さんの部屋へと向かう



部屋の前まで来ると丁度幸村様が才蔵さんの部屋を出てきたところだった





「幸村様!」


「お…おう名無しさんか。それは…」


「ふふ。才蔵さんがお好きだと聞いたので…良かったら幸村様もご一緒にいかがですか?」



悲しそうな表情の幸村様を誘ってみると、少し考えてから口を開く




「…いや。俺はいい。早く才蔵に持っていってやれ、あいつも喜ぶ」


「…?」



幸村様何だかいつもと違う?


気になったが、パタパタと去る幸村様

ただその背中を見送ってようやく才蔵さんの部屋に入った 






















「才蔵さん」


盆に団子とお茶を乗せ現れた名無しさんを見て、前に戻った感覚に陥る



込み上げてくるものを抑えながら何とか平静を装い、笑顔を作ると俺の前に盆を置いた





「早速作ってみました!食べてみてください!」


「…ふーん。じゃあ試しに…」



作りたての団子を一つ頬張る




口の中に広がる優しい味は記憶をなくす前の名無しさんと同じ味だった





「…美味しいよ」


「本当ですか!?良かった〜」




胸を抑えホッと安心したように笑う名無しさん




二人きりの穏やかな時間




いつもの団子





気付くと俺は名無しさんの体を強く抱き締めていた































「わっ!?ちょっ…才蔵さん!?」





突然の出来事に慌てふためく


初めて感じる男性の力強い抱擁



意外と逞しい腕と広い胸



鼻をくすぐる才蔵さんの香り




何故だろう


驚きはしたが全然嫌じゃない


むしろ安心する




すると今にも消え入りそうな悲痛な声で才蔵さんが呟いた





「…ごめん…もう少しだけ、このまま…」






あまりにも切ない声で言うから、私まで泣きたくなって



私の腕は自然と才蔵さんの広い背中を包み込む



まるでそうすることが当たり前のように











私達はしばらくそのまま抱き合っていた



















あの日から毎日頭の中は才蔵さんでいっぱいだ


気まぐれで、素っ気ない忍



でも何故かいつも側にいて、そっと見守っていてくれる





掴み所のない彼は、まるで何事もなかったかのようにいつも通りで、全部夢だったんじゃないかと思う程だ



しかしあの日から毎日才蔵さんのために団子を捏ねる私を嬉しそうに、そして切なげに笑って受け入れてくれる





彼のことなどまるで知らないのに、何故か元気がないと感じてしまう




私の前で作る笑顔は無理して作っているのだと、確信があった










「よし!できた!」



味を変えながら作っている筈なのに、作ったことがある気がするのは何故だろう?


いくら考えてもわからない




(とりあえず才蔵さんの所に持っていこう…)




そう思い盆の上にお茶と団子を乗せた
























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