恋乱LB V

□猫の気持ち
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体が軽い…?


あれ?私どうしちゃったんだろう?




そういえば…佐助君がくれた最中を食べて…



体が急に熱くなって…


気絶したのかな?



とりあえず水でも…

ん?これは私が着てた着物…


どうしてこんなところに脱ぎ捨ててあるんだろう?


ふと手元に視線を落とすと、そこにはある筈のない可愛らしい肉球



「!?」



(ナニコレ!?)


改めて自分の体を見回してみると



白い毛に、長い尻尾、

そして何故か垂れ耳





「猫っ!??」





何で?どうして?


混乱のあまり目眩がする


訳がわからずクルクルとその場を何周かすると、ある可能性に気付いた




(これは夢だ!落ち着け…覚めろ覚めろ…)




何度も念じてみたが、一向に起きる気配がない




(そうだ!頬をつねれば…!)



「…………」



目の前にはドーンと可愛い肉球


もし今私が猫じゃなかったら、思わずプニプニしてしまいそうなほど柔らかい




(頬をつねることすら出来ないの…?)







とりあえず、今は落ち着いて…


私は猫になるまでの数刻前を思い返していたー…





















「名無しさん!これやるよ!」

「あ、佐助君。何それ?」



差し出されたのは控え目な丸い最中



「先生に"お前なら使うときあるかも"ってもらったんだけど…俺最中あんまり好きじゃないんだ」

「え?いいの?才蔵さんにもらったやつなのに…忍者道具かもしれないよ?」

「まさか〜〜ただの非常食だろ!最中の道具なんて聞いたことないし!」

「そう?じゃあ有り難く頂こうかな」

「おう!きっと美味いぞ!じゃあ俺、幸村様の稽古に行ってくる!」

「行ってらっしゃい。頑張ってね」



手を振って佐助君を見送る



手の中に残されたのは甘い香り漂う可愛らしい最中



(美味しそう…)




丁度小腹も空いてたところだし、休憩がてらお茶と一緒に頂こう



そう思い残っていた洗濯物を全て干し終えると、お茶を用意して自分の部屋へと戻った





「ふー…」



温かいお茶を喉に流し込むと、じんわりと体が温まり、同時に溜め息が溢れる


小さな最中を手に取り、一口で頬張ると控え目な甘さが口の中に広がった




「〜〜おいひぃ!!」




これは伊賀の里で作られた特別な最中なのかな?


是非とも作り方を教わりたい…




呑気な思考は体の底から込み上げてくる熱さで中断される



「…あつ…い…?」



どんどん


湯気が出そうなほどに熱くなる体



骨が溶けていくように


座っていられなくなった私は床に倒れる



ヒュウと掠れた呼吸音が聞こえて…



助けを呼ぶことも出来ないまま、気を失ったのだったー…



















「あの最中が原因…?」


それしか思い当たる節がない



才蔵さんが佐助君にあげた最中は正しく忍者道具だったのだ



けれど私にはどうしたら人間に戻れるのか知る術がない


とりあえず才蔵さんの姿を探そうと表に出る 



「才蔵さーん!どこですかー!」



大声で叫んでいるつもりでも、この小さな体じゃ限界が知れている


掠れてボロボロになってもいいという気持ちで、とにかく才蔵さんの名前を叫び続けた




「助けてー!!」



















「おや、迷い猫かな?」


「っ!?信幸様…」



振り返ると柔らかな笑みを浮かべた信幸様が立っていた



「みゃーみゃーと可愛らしい声がすると思ったら君だったんだね」

「!?みゃーみゃーって…」



私は普通に言葉を喋っているつもりだったのに…



(人には猫の鳴き声にしか聞こえないの…?)



よく考えれば、当たり前のことかもしれない


こんなに完璧に猫の姿に変身できても、声が人のままだったら意味がないのだ



(ということは…誰に助けを求めても…)




ただの、迷い猫…として見られる?







そう思ったら急に目の前が真っ暗になって足からガクンと崩れ落ちた





「あ!これはいけない。相当弱っているみたいだね。おいで、何か食べるものを持ってきてあげるから」



優しい笑みを浮かべた信幸様が差し出す手に


すがるように私は足を動かしたのだったー…






















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