恋乱LB U

□今までも、そしてこれからも…
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よく晴れたあの日の午後

才蔵さんらしき後ろ姿を庭で見つけた


「あ、才蔵さーん!あの…」

クルリと振り返った顔は、才蔵さんにそっくりだがよく見ると違う


「蛍ちゃん…?どうしてここに?」


蛍ちゃん…才蔵さんの弟

確か里で匿われている筈じゃ…

相変わらず蛍ちゃんは言葉を発することはなく、何かを半紙にサラサラと書き始めた


"お願い"


「お願いって…」


すると、突然旋風が巻き起こり蛍ちゃんの側に音もなく雪さんが現れる


「駄目じゃない!勝手にいなくなったりして〜」

「雪さん!」

「こんにちは名無しさんちゃん。丁度良かった、貴女も一緒に来て才蔵を説得してくれない?」

「説得…?」
























「無理。早く連れて帰れ」


大広間には才蔵さん、私、雪さん、蛍ちゃん、幸村様の面々

どうやら蛍ちゃんがどうしても才蔵さんに会いたくて上田まで来てしまったようだ


「たった数日いいじゃない。何も一生一緒にいろってわけじゃないんだし〜ねぇ、ユッキー?」

「うぅむ、そうだ才蔵。たった一人の弟じゃないか、たまには兄弟水入らずも悪くないぞ?」

「……………」

チラリと才蔵さんの様子を伺うと、恐ろしく冷たい無表情で弁解の余地は無さそうだ

(蛍ちゃんが途中まで綴ったお願いってこのことだったんだ)

切ない蛍ちゃんの表情に胸がつまる

「…才蔵さん」

「駄目」

「でも…」

「蛍がここにいるなら、俺が里に帰る」

「あら、じゃあ仲良く三人で帰りましょうか」

「うるさい」


(う〜〜〜ん…手強い…)


「じゃあ、ちゃんと日数を決めて一緒にいるってのはどうですか?」

「そうだ!それがいい!じゃあ一週間!」

「長い」

「じゃあ五日間!」

「無理」

「…じゃあ三日…」

「………………」


(あ、才蔵さんちょっと考えてる…?今が攻め時かも!)


「才蔵さん、私も一緒にいますから、どうか三日間だけでも蛍ちゃんを預かりましょう?才蔵さんの弟さんですもん、見過ごせません」


皆が固唾を飲む中、しばらく考え込んだ才蔵さんは漸く重い口を開いた




「………三日だよ」

「っ!ありがとうございます!」

「じゃあ三日後に迎えに来るからよろしくね〜」

ヒラヒラと手を振りながら雪さんはその場からフッと消える

チラリと才蔵さんと蛍ちゃんを見ると、才蔵さんはげんなりとした顔、蛍ちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせていた


(同じ顔で真逆の表情してる…)


「ふふ…」

「何笑ってんのさ」

「いえ、何でもないです!三日間よろしくね蛍ちゃん!」

手を差し出すと、蛍ちゃんは顔を赤く染めながらもぎゅぅと手を握ってくれる


(かっ…可愛い!)


才蔵さんの可愛い版というか、初版というか…思いきり抱き締めたい衝動に駆られたがグッと堪えた


雪さんが蛍ちゃんに抱き着いてる時、少し嫌そうな顔をしていたから、あんまりベタベタするのは嫌いなのかも…


「じゃあ部屋に案内するね!」

「ちょっと待って。どこで寝かせる気?」

「えっと…才蔵さんのお部屋ですけど」

「無理。佐助の部屋にしなよ」

「佐助は最近俺と寝ているから無理だろう、お前に会いたくて来てくれたんだ。一緒に寝てやれ」

「へぇ…じゃあ蛍の前で名無しさんにあんなことしたり、こんなことしたりしてもいいんだ?」

「わっ!馬鹿!子供の前だぞ!!」

「そ…そうですよ!何言ってるんですか才蔵さん!」

「幸村達こそ、そんなに顔赤くして…一体何を想像したの?」


いつも通り幸村様をからかう才蔵さんのことを、寂しそうな瞳でじっと見つめる蛍ちゃん

繋がれた手にぎゅぅと力が籠った気がした


「あ!じゃあ私の部屋で一緒に寝ようか!」



















「は?」


ニコニコと蛍に笑いかけると、蛍も安心したように笑顔で大きく頷いた


「それなら問題ないですよね!才蔵さん!」

何も考えていないのか、悪びれた様子もなく俺に同意を求める


「…やっぱり蛍は俺の部屋で寝せる」

「えっ!?いいんですか?」


良かったね蛍ちゃんなどと仲良さげに手を合わせる二人を見て溜め息をついた


全く何を考えているのか…

いや、何も考えていないのだろう

いくら幼いとはいえ、蛍も普通の男だ

ただ喋らないから余計に幼く見えるだけで、背だって名無しさんよりも高いし、力では到底敵う筈もない


最も、力など使わなくても蛍が言葉を発すればその通りに動くしかなくなる

脱げと言われたら脱ぐだろうし、愛せと言われたら…










「才蔵さん?」

























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