恋乱LB Ⅱ
□首筋に咲いた華
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｢おいで｣
ニッコリと微笑みながら片手を私に伸ばして、自分の方へと引き寄せる
やっと通じ合った二人の想い
そして……
｢ん……｣
チュッと音を立てながら重ねた唇
才蔵さんの唇に翻弄され、頭の芯から溶けてしまいそうになる
｢は…ぁ…｣
ゆっくりと糸を引きながら離れ、私の濡れた唇を才蔵さんがそっと指で拭った
｢…顔赤いね｣
クスリと笑う才蔵さんから目が離せない
自分でも未だに信じられないのだ
遠いと感じていた才蔵さんと、こうして同じ場所で、同じ時を過ごす…
都合のいい夢でも見ているんじゃないかと思うくらい幸せで、気絶しそうになる
｢…何してんの｣
｢…いえ…。もしかしたら夢かも…｣
ギュウと力一杯つねった頬からは確かに痛みを感じて、夢ではないことを教えてくれた
｢くくっ…夢じゃないよ…｣
ヒリヒリと少しだけ痛みを感じる頬を優しく撫でて才蔵さんが笑う
｢っ…！｣
(才蔵さんが優しすぎるっ！！)
甘い笑顔で私の頬に手を添えたままの才蔵さんは、まるで憑き物が全て落ちたかのように爽やかだ
直球で優しくされることに慣れていない私には眩しすぎる
｢…才蔵さんが…くすぐったいです…｣
｢…何それ？｣
｢何か…いつもよりお優しいから…｣
｢いつも通りだけど｣
そっと抱き締められ、才蔵さんの香りが鼻孔に広がった
背中に手を回し、私も力を込めると才蔵さんは、甘えるように私の肩口に顔を埋め溜め息をつく
｢っ！…た…｣
首筋にピリッと痛みが走って、思わず声が出た
｢痛かった？｣
｢少しだけ…何したんですか？｣
｢…さあね｣
｢…？｣
意地悪く笑った才蔵さんには、何を言っても無駄だと今までの経験上立証済みだ
あくまでシラを切り通す才蔵さんを不審に思いながらも、その後それについて追求することはなかった
｢名無しさんさん、味噌汁の味付けお願いできますか？｣
｢いいですよ｣
｢ありがとうございます…ぁ…｣
｢…？どうしたんですか？｣
｢…ついに…おめでとうございます！｣
｢え…？何のことです？｣
｢これですよ！これ！｣
梅子さんはしきりに首の辺りを指差して喜んでいる
が、私には何のことだかサッパリわからなかった
｢あの…本当にわからなくて…一体何ですか？｣
｢もう！名無しさんさんたら夢中で、つけられたことも気付かなかったんですか？ついてますよ！痕が！｣
｢痕…？って何の…｣
｢ようやく才蔵さんと繋がったんですね！おめでとうございます！それは才蔵さんの印でしょう？｣
｢えっ！？｣
(繋がったって…？そう言えば、あの時…！)
才蔵さんに抱かれている時に感じた首筋の鋭い痛み
あの時つけられた…？
間違いない
ってことは…
｢っ！！いや、あの…違うんですこれは…それに私達はまだ…｣
｢照れなくても大丈夫ですわ。皆が通る道ですもの｣
｢いえ！そうではなく…っ！｣
｢才蔵さんとの甘い夜なんて…想像できないですけど、それだけハッキリとした痕をつけるだなんて、名無しさんさん相当愛されているのですね｣
(誤解だってば！！)
慌てふためいて否定すればするほど、尚茶化されて仕方なく諦める
結局梅子さんの誤解を解けぬまま、慌ただしい夕げの支度を終えたー…
(愛された痕…か)
部屋に戻り、早速鏡を覗いてみると白い首筋にはクッキリと赤い痕がつけられていた
襟にも隠れない所に付けるあたり、実に才蔵さんらしい…
｢もー…どうしようコレ…｣
とりあえず髪の毛で隠すしか…
｢あれ、隠すつもり？｣
｢きゃぁあっ！！｣
いつの間に居たのか聞き慣れた声に後ろを振り返ると、才蔵さんが普通に座って寛いでいた
｢…いつから居たんですか…｣
｢さっき｣
悪びれた様子もなしに笑顔で言われると、もはや怒る気も失せてしまう
｢で、それ隠すつもり？｣
｢だって…このままじゃあ恥ずかしくて炊事場にも立てませんよ…｣
長い髪の毛を前の方に流し、なるべく首筋が見えないようにすると、才蔵さんに付けられた赤い痕は見事に隠れた
｢ほら！これなら見えないですよね！｣
｢…………｣
才蔵さんは返事をせず、ただじっと私を見つめる
｢才蔵さん？｣
名前を呼んでも微動だにせず、何かを考えているようだ
*