恋乱LB U

□未来へ続く結晶
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特に目立った事もない平凡な日々


こんなにも心穏やかに平和な毎日を過ごせるなんて、生まれて初めてかもしれない



「才蔵さん、お茶を…きゃっ!」


「ほら、危ないよ」



名無しさんの手から滑り落ちた湯飲みを、寸でのところで掴まえる


すると中に入っていたお茶が溢れ、手にかかった



「才蔵さんっ!大変!火傷しちゃう!」


「これぐらい大丈夫だよ」



俺の制止も聞かずに走り出した名無しさんに苦笑しながら、お茶を啜る




このありふれた幸せが、ずっと続けばいいのに…


そう願わずにはいられないほど、俺は満たされていた




「才蔵さん!これで冷やして下さい!」


ひんやりと冷たい布を慌ててお茶のかかった手に当てる


「大袈裟…」


「だって最初に湯飲みを落としたのは私ですし…そうだ!お詫びに美味しいお団子をご馳走させて下さい!」


「へぇ…お前さんが作ってくれるの?」


「いえ…この前佐助君と行った甘味処のお団子がすごく美味しかったので、才蔵さんにも食べてもらいたくて!」


ニッコリと嬉しそうに笑う名無しさんに釣られて、自然と頬が緩む


「じゃあ行こっか」


「はい!」



差し出した手を当たり前のように、ぎゅっと繋ぐ

些細なことが嬉しくて、小さく温かい手が可愛らしくて、心から愛しいと感じた















「どうですか?才蔵さん」


「ん、普通にうまい」


「普通にって…」


「俺はお前さんの作る団子の方が好きだけどね」


「えっ…本当ですか?嬉しいです…ありがとうございます」


照れ臭そうに俯いて笑う名無しさん


しかしこれは本心だ

決してお世辞ではない


毎日俺のために色々な種類の団子をこしらえている内に、店でも開けそうなくらい団子作りが上手になっていた


「お前さん…あんこを食べるの珍しいね」


最近ずっと気になっていたこと

あまりあんこを食べなかった名無しさんが最近毎日あんこものばかりを食べている



「え?そうですか?前から好きですよ?」


「あんことみたらしだったら、みたらしの方が好きだったでしょ」


「うっ…そう言われてみれば、そうですけど…最近無性にあんこが食べたくて…」


「ふーん…」


単に好みが変わっただけか…


この時はそれぐらいにしか考えていなかった


微かな予兆を感じ取れなかった未熟な俺は、さほど深く考えず最後の一本になった団子を頬張った






















慌ただしい夕げを終え、久しぶりに幸村と酒でも飲もうかと誘われた


「才蔵!久しぶりに俺にも付き合え!お前の部屋で名無しさんと一緒に飲むぞ!」


「幸村酔うと面倒だし…」


「まあ、そう言うな!御屋形様から上等の酒が届いたから三人で飲もう!」


「え、私もですか?」


「たまにはいいじゃないか!お前だって酒飲めないわけではないだろう?」


「まあ…飲めないわけではないですが…けど私もお邪魔していいんですか?」


「当たり前だろう!何たって名無しさんは俺の親友の女だからな!」


「ありがとうございます…じゃあお言葉に甘えて…」



二人で盛り上がりながら、部屋へと向かう姿を後ろから眺める


何か予感がした


最近ずっと感じていた違和感


それがようやく俺の中で形を作っていくような…モヤモヤとした思いを抱えながら、二人の後を追った













「おつまみをお持ちしました」


「おぉ!名無しさん!かたじけない!お前も早く座れ!」


「失礼します」



部屋につくなり、待ちきれないといった様に酒盛りを始めた幸村に名無しさんは急いで乾きものを持ってくる


とくとくと注がれた酒を幸村が差し出すと、遠慮がちにそれを受け取った



「さあ、飲め!うまいぞ!」


「いただきま…」




口に持っていこうとした彼女の手をやんわりと押さえる


驚きの眼差しを向ける幸村と名無しさん


先に口を開いたのは幸村だった




「どうした才蔵?名無しさんもたまには飲みたいだろう」


「才蔵さん…?」











「駄目だよ」


全く訳がわからないというような表情で首を傾げる二人に、ニッコリと目を細めた






「名無しさんが酔うと、夜が激しすぎて俺の身が持たないからね」




「「はあっ!??」」




顔を真っ赤にさせた名無しさんと幸村は、同時に驚きの声を上げる





























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