恋乱LB U

□そしてまた恋をする
1ページ/7ページ




年末の大掃除のため城内は慌ただしく行き交う女中と家臣達で騒がしい


男は力仕事、女は掃除と効率良く皆一生懸命に働く





私は朝干した洗濯物を取り込むため庭にいた




「名無しさん!俺も手伝うぞ!」


「ありがとう佐助君」




二人で他愛ない話をしながら、乾いた洗濯物を取り込む




「才蔵さんは?」


「ん〜先生はお姿が見えないから、きっとどこかでお昼寝かも」


「もー…しょうがないなあ…」






すると突然強い風が吹き抜けた




「あっ…」





私の持っていた才蔵さんの上衣が風に飛ばされて、屋根の瓦に引っ掛かる





「よかった…飛ばされないで…」





カタンと梯子をかけ、飛ばされない内にと焦って登った





「おい!そんなに急いだら危ないぞ!」


「大丈夫!ほら、とれた…ぁっ!」





上衣を取った拍子に、体が傾いてそのまま宙に浮く
















ガタン!!










「名無しさんー!!」












ああ…佐助君の声がする…




大丈夫だよって早く起きなきゃ…





あれ?体が動かない…?













私の記憶はそこで途切れたー…





























「誰かーっ!!誰か来て!!先生!!」








(うるさいなあ…)





少し離れた所で昼寝をしていた俺は佐助の大声で目を覚ます




すると幸村の声と、女中達の喚く声が聞こえた




嫌な予感がして、すぐに向かう















「何事?」



見ると目を真っ赤にして泣きわめく佐助と、青白い顔をした幸村、焦る女中達、その輪の中に倒れた名無しさんを見つけた





「先生っ!名無しさんがっ…梯子から…っ!」



見ると倒れた梯子に、散らばった洗濯物






(落ちたのか…)







早鐘のように打つ心臓を押さえながら名無しさんに近付く




息はしている





気を失っているだけか…












「念のため薬師を。俺は名無しさんを部屋に運ぶ」


「わかった!」




弾かれたように走り出した幸村



あまり衝撃を与えないよう、そっと名無しさんを横抱きにすると部屋へと向かった






俺の見たところ外傷はなく、骨も折れていない



気を失っているだけだろう





そっと褥に横たえ、薬師が来るのを待つ
















「意識を取り戻さないとわかりませんが、怪我はないようですね」



すぐに到着した薬師は一通り彼女の体を調べたが、俺と同じ見解だった



しかし意識が戻らないのが気になる



それは幸村も同じだった様だ




「いつ意識を取り戻すんだ?」


「それは…わかりません。夜かもしれないし、明日かもしれないし…一ヶ月後かもしれない」


「っ…!」



残酷な現実に思わず息を呑む




「とにかく様子を見ましょう。彼女が意識を取り戻した時のために誰かついていた方がいい」




「俺がついてるから」





すかさず、そう伝えると俺の心中を察した幸村と薬師は静かに部屋を出ていった














静かになった部屋



小さな呼吸だけが彼女の生を物語っている



どうして側にいてあげなかったんだろう



俺さえ側にいれば少なくともこんなことにはならなかった



後悔してもしきれない








「早く目を覚ませ…」







俺の呟きは彼女に届くことなく、宙に浮いて消えた





































「…ここはどこ…?」



美しい花畑の中に立っている


あれ?私佐助君と洗濯物を…






"早く目を覚ませ"







誰かの切ない声が聞こえる



あぁ…これは夢なんだ



早く起きて大掃除の続きしなきゃ…



























「……ん…」



パチリと目を開けると見慣れない天井が見えた




「…っ名無しさん…!」





私の名を呼ぶ声がして首を横に向けると、銀髪で端整な顔立ちの男性が目を丸くさせて私を見つめている





しかし誰かはわからない







「…大丈夫?お前さん梯子から落ちて…」







「…どなたですか?」






















*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ