One More Time

□06
1ページ/3ページ





私が誠凛バスケ部のマネージャーになって少し経った。
マネージャー業にも少しずつ慣れてきて余裕が出てきた。
やっぱりプレーしたいって気持ちはなくならないけれど、今はみんなのサポートが私の役目。
いつかプレーできる日までどんな形であれバスケに関わっていることを決めたから。

マネージャーの仕事はドリンク作りから始まり、ボール磨き、ミニゲームの審判などなどその他雑務。
練習後はクールダウンにマッサージしたり、あとは個人的にみんなの成長記録をとっている。

やってみて思ったけど、案外やることたくさんあるんだなぁ。
リコ先輩今まで大変だっただろうなぁ。






そんな今日は、リコ先輩のお父さんが経営しているジムでのトレーニング。

私もみんなについて行く…のかと思いきや、私は今、ストバスコートにいる。




実は前日、リコ先輩からこんな指示を受けた。






「翼ちゃん、明日はここに行ってほしいの」

『はい!…ってここストバスコートじゃないですか?』





渡された地図には私も行ったことのあるストバスコート。
みんなと一緒にジムじゃないんだ。





「明日、もしかしたら…ううん、確実に火神君は来るわ」

『…あー、なるほど。つまり、大我が来たらバスケするなって止めればいいわけですね?』

「そう。あのバカ、絶対バスケしようとするわ」






大我は秀徳戦で足を痛めてしまった。
なので今週一杯は休養を強制させられているのだ。
でも大我のことだから練習しようとするだろうな。












ということで私が派遣されたのである。


まだ大我は来ていない。
来ないならそれはそれでいいんだけどね。




ダム ダム




私は自分で持ってきたボールを弾ませる。
大我を止める役とはいえ、もし来なかったら無駄足だし、少しだけならと思ってボールを持参した。

久しぶりにシュートする。




パシュ




ボールは綺麗な半円を描いてゴールに入った。
もちろん、足に負担がかからないように意識してシュートしてみた。
これくらいならできるんだけどなぁ。



自分の右足を見て少し物思いにふける。







あの時、あの試合。
無理をしなければ今頃、まだバスケを続けていられたんじゃないかと思う。



中学三年、最後の全中、決勝戦。



相手は私を研究し尽くした相手だった。
私の次の行動まで予測されていてなかなか苦しい試合だった。
それでも私はその試合で成長していたんだと思う。
相手が自分たちの予測が通用しない、と分かった途端、かなり強引なプレーに移行したのだ。


そこで事故は起こった。


私がシュートするとがむしゃらに突っ込んで止めようとしてきた相手選手に体当たりされ、私はその選手の下敷きに。
私よりガタイのいい選手の全体重が私にのしかかった。
そのとき足をひねっていたのも不運だったと思う。
ひねった瞬間に相手選手がその足の上に倒れてきた。
あらぬ方向に曲がりそうになった…いや、曲がっていたかもしれない。
そのときの記憶はあいまいだが、そんな感じがした。

ものすごい激痛。
それははっきり覚えてる。
周りの静止も聞かず、アイシングとテーピングをしてもらって無理やり最後まで試合に出場したことも覚えてる。
そして、優勝したあと、病院に行って病院の先生からバスケをしてはいけない、と告げられたこと。
この部分は鮮明に覚えている。とてもショックだったから。
足首だけならまだしも、筋やアキレス腱にも影響していたらしい。
原因は事故はもちろん、無理やり試合に出たことが最大の原因だと言われた。
病院の先生の先生からすごく怒られた。
でもそんなの耳に入らないくらいショックだった。

一生できないわけではない、とは言われたけど…。

今このときにバスケをしていたかった。




これが私の後悔。






『無理はダメだよね…』

「紺野?」





後ろから名前を呼ばれ、振り向くとそこには大我がいた。





『大我、やっぱり来たね』

「なにやって…今日練習だろ?」

『リコ先輩に言われて大我を監視に来たの!』

「なっ…」

『休養するように言われてるでしょ!なんとなく気持ちはわかるけど、今日はバスケしちゃダメ!』

「少しならいいだろ…」

『ダメ!ぜっっっっったいにダメ!!』





うっ、と大我は言葉をつまらせた。





『ということでボール没収します』

「はぁ!?ってかお前もボール持ってんじゃねぇか!」

『私は今は選手じゃないからいいの!大我は選手だから無理したダメ!』

「分かった!分かったから近ぇ!!」





大我は私の両肩を持ってずい、と遠ざけた。





『分かってくれたのね!』

「あー…でも一回だけシュート打たせてくれよ」

『…一回だよ。ダンクはなし!』

「はいはい」

『はいは一回!』

「わーったって!…というかお前バスケ少しはしてもいいのか?」

『あー…まぁ走り回ったり跳んだりしなければかな』

「試合中の事故っつったっけ?」

『うん。全中の決勝でね。今思えば決勝でよかったなぁって思うよ。
このあと試合が控えてるってなったらそれこそ後悔しかしなかったよきっと』

「そのあとキセキのやつらと仲悪くなったってわけか」

『仲悪くというか私が荒れてたからねぇ。それにみんなも。それがちょうど衝突したって感じかな?
私が一方的に離れて行ったっていうほうが正しいかもしれないけど』

「ふーん。なんか複雑だな、っと」




そう言うと大我は軽くジャンプしてシュートを決めた。




「…っってぇ」

『え!?ちょっと今痛いって言った!?』

「い、言ってねぇよ!」

『いいや言ったね!ちょっと座って!』





そう言って無理やり大我を座らせて足に軽く触れる。





『痛い?』

「今は痛くねぇ…」

『じゃあリラックスしてね』





大我の足を軽くマッサージする。
専門的な知識がないが、自分の経験上どこをどうしたら良いかが染みついている。





「………」

『ん?なに、大我、そんなじっと見つめちゃって』

「み、見つめてねぇよ!ただ…」

『ただ?』

「そうやってオレのためにマッサージしてくれてる時の顔、なんとなく好きだなぁって思って…」




………。



ぼんっ



そう効果音がつきそうな勢いで私の顔は赤くなったと思う。

そしてつられて大我も赤くなっていた。





「な、なんだよ!!」

『そ、それは私のせ、セリフだし…なんなの急に…』

「………いいいいいやいや好きっていうのはだな、その、好きっていうか…なんていうか」

『す、好きとか何回も言わなくていいから…』





大我はきっとさっき言った自分の言葉を思い返してパニックになっているようだった。
パニックなのは私のほうだよ…。





「おい」




ビクッ


いきなりドスの効いた声が聞こえたので驚いてしまった。



この声…。
今一番会いたくないやつだ。




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ