題名のない日々

□キミの音
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パタパタと近付く足音。


「‥雪さーん」


まだ声変わり途中の甘えた少年の声。
その高めの明るい声音は、彼の性格や人間性がよく表れている。


直ぐ側で耳を擽る吐息。
ずっしりと確かな重みを背中で感じながら、顔を向ける。

目が合うと、それは嬉しそうに顔を綻ばせた。
こっちまで何故だか笑みが零れてしまう程、彼の笑顔には愛嬌がある。
それだけ周りに愛されて育ってきたんだろう。


俺の首に回されている腕に力が入る。
布が擦れ合う音と共に、さらに近付く智也の顔。


規則的に繰り返される呼吸音。
小さな乱れさえも手に取るように判る。
それに同調するように、次第に智也のこと以外考えられなくなる。

他の一切を遮断したように、二人の空間だけ切り抜かれたような不思議な感覚。


それは、まるで―。


呼吸さえも俺の自由に出来そうな。


そんな錯覚を覚える程、甘美な一時…―。





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