お題小説

□恋・5題
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初めて目の前にした彼の、ひどく挑発的な視線に心を奪われてしまった―。



【君を奪いたくなる】


放課後、一際人気のないそこに彼は居る。
人気がないのは、彼がそうさせているのも理由だが。

窓際で気だるそうに校庭を見下ろしている彼を、ほんのりと紅い陽光が照らしだす。


「クフフ…退屈そうですね、雲雀くん」


声を掛けると然程驚くこともなく、不愉快そうに鋭い眼光を浮かべて僕に視線を向けてきた。


「また君か…。今日は何の用?」

「おや、相変わらず連れないですね」

「用がないなら帰ってくれる?僕も暇じゃないんだ」

「それは失礼。でも、さっきまで退屈だと顔に出ていましたよ?」


僕がニコリと笑みを向けても、彼は変わらず敵意を剥き出しにした瞳を向けたまま。
―でも、その瞳が僕を愉しませていることを、彼は気付いていないのでしょう。


「僕は君が嫌いだ」


―はっきりと伝えられた言葉。
僕の耳に、胸に、深く突き刺さり、その痛みが全身を伝う。


「そうでしょうね。僕に好意を抱く人間の方が珍しいでしょうから…。気にしたことはありませんが」


僕の言葉が勘に触ったのか、ゆらりとその黒髪をなびかせてこちらに身体を向ける。
獲物を見付けた獣のような、冷ややかで深い双眼―。

僕の力を知って尚、これだけの敵意と嫌悪を向けてくるのは彼が初めてだ。

だからこそ―。
心臓を鷲掴みにされたように高まる鼓動。
脳が痺れたように昂ぶる欲求…―。


「話にならないね。もう帰ってもらっていいかな」

「残念ですね…。僕はあなたのことが好きなんですが……―」


…彼に背を向ける。
彼の視線に、これ以上惑わされないように。
今は、まだ…―。


「また来ますね……




 ……恭弥」


その瞬間、立ち上る殺気。
彼が下の名前を呼ぶことを許している相手は一人だけ。

さぞかし僕が気に入らないでしょう。


―でも、それで構わない。
そうやって、嫌でも彼は僕を意識せざるをえない。
極度の負けず嫌いである彼には、挑発もまた有効な手段…。

例えそれが嫌悪の念でも、君は僕のことを忘れないでしょう?


こうやって、少しずつ―。
僕は彼を浸食していく―。



決して僕に屈しない、強く麗しい男。
その瞳も、その躰も―そして、心も…―。

いつの日か、その全てを僕の手中に収めてみたい。
あの揺るぎない真直ぐな瞳を、僕の全てで揺るがせてみたい―。

愛でなくても構わない。
もとより、他人からの愛情など求めてはいない。
単に、彼の意思を折ってみたいだけ。
―そう、それだけ…―。




あの日から、僕は君の瞳に囚われたまま…―。

繰り返し繰り返し、君を壊すことばかり考えている…―。





.END.
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