お題小説

□恋・5題
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【内緒にしないで】


心地好い風と豊かに広がる緑の匂いを取り込むように、目一杯伸びをする。
眼下にははっきりと、さっきまで自分が居た立派な城が見て取れる。


「―はぁ〜…。いいねぇ〜、やっぱこういう日は外に出ないとな」


一本の木の根元に座り込んで、青く澄み渡る空を見上げた。
天気は気持ち良いくらいの快晴。


「鬼の居ぬ間に、ってヤツですね」

今日の青空みたいな、それはもう爽やかな笑顔を浮かべて、俺のお供はクスクスと隣で笑う。
…時々、この笑顔はとてつもない武器にもなるワケだが、彼の好青年っぷりに嘘はない。……だから、威力あるのか。

改めてそう解釈するも、今はそれは置いておこう。


「ありがとな、コンラッド」

「どういたしまして、ユーリ」


美麗な婚約者に追い回され、その後美形な教育係にマンツーマンで指導を受けること数時間…。
心も身体も凝り固まっていたところを、隙をついて二人で抜け出して来たのだ。
…正確には、俺が頼んで付き合ってもらったんだけど。


「でも、帰ったら続きをちゃんとしてもらわないと」

「分かってるって。ちょっと休憩だよ、休憩」


コンラッドはいつも微笑みを絶やさない。
だけど、穏やかな鳶色の瞳のその奥に、時折陰が差したように深い色が滲む。


俺の胸の上で光る青い石は、コンラッドの大切な人の形見らしいことは分かった。
コンラッドがこれをどんな思いで俺にくれたのか、俺には想像つかなくて。
いつも身につけてる俺を、どう思ってるんだろう―。


笑顔のその裏には、俺が簡単には理解出来ない過去があることは何となく感じる。
それを話さないのは、話したくない程のことがあったのかもしれない。

そんなことを考えるようになったら、無理して笑ってるんじゃないかと不安になる。
何だか時々、コンラッドの笑顔を見るのが辛くなる…―。


「‥ユーリ?さっきから黙り込んで…どうしました?」

「あ…や、何でもっ」

「‥そうですか。…では、そろそろ帰りましょうか」


そう言って差し出されたコンラッドの手はとても温かくて、少し安心した。



なぁ、いつか―。

俺が一人前の魔王になった時でもいいや。


コンラッドがこれまで感じてきたことも、
今考えてることも、
これから先への希望も。


いつか全て聴かせて欲しい。
コンラッドの言葉で―。



握り締めるこの温もりも、それに負けない暖かな眼差しも、嘘じゃないと信じてるから。




.END.
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