cocoro
□白い花2
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「・・・・それ」
ホールに戻る為、一歩踏み出そうとした瞬間、ルイ様が何かに気付いた様子でつぶやいた。
不思議に思って思わずルイ様を見上げると、ルイ様の視線の先にあるものに気づき血の気がひいてしまった。
ルイ様が見ていたのは、私が手にしたままだった小さな花束。
固まってしまった私に、ルイ様が問いかける。
「それ、どうしたの」
この真っ白になった頭ではうまいこと言い訳もできない。
私は意を決して、花束をルイ様に差し出した。
恥ずかしいやら何やらで顔は見れないから、どういう表情をしているかはわからない。
けど、驚いているような雰囲気なのは感じた。
「え・・・・」
「お誕生日のお祝いに、何かを送りたかったんですけど、高価なものは買えないし、ルイ様が欲しいものもわからないし、なので、その・・・・せめてお花を、と思って・・・」
多分、相当たどたどしい言葉になってしまったけど、今の私にはこれが精一杯の言葉だった。
「キースでは聞いた事がなかったのですが、願いが叶う白い花、という話を城下で聞きました。
これがそうかはわからないけれど・・・」
そして小さく、こんなものでごめんなさい、と付け加えると、ルイ様は私の手から花束を受け取ってくれたようで。
はっとしてルイ様を見上げた。
ルイ様は私が驚いてしまうくらい、切ない表情で私が渡した花束を見ていた。
「ルイ様・・・?」
「俺に願い事なんて、ないよ」
軽く目を伏せたかと思うと、そうつぶやくルイ様。
どうしてそんなに悲しそうなの?
こんなにキラキラした世界で生きる人に、悲しい顔は似合わない。
笑っていてほしい。
なぜか、その時私は強くそう思った。
「・・・じゃあ、私が願います」
考えるより先に、言葉が口をついて出る。
花束を持つルイ様の手を包み込む様に、私は手を添えながら心の底から祈った。
「ルイ様に、幸せが訪れますように」
私はもう上手く笑えないかもしれない。
幸せなんてこないかも。
ルイ様が笑った顔って見た事がない。
でもこの人には、きっと幸せそうな笑顔が似合うと思う。
私の分まで、笑ってほしいの。
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