cocoro
□はじめまして
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気付いたら、彼女はここにいた。
最近あまり王宮には立ち寄る事がなかったが、一ヶ月ほど前にウィスタリアの西の端にあるキースという大きな街が、大きな山崩れで半壊した事件があった。
その復興支援の関係で、久しぶりに王宮に立ち寄ったときの事。
久々に公務でジルの執務室を訪れると、見知らぬ少女が一人迎えてくれた。
黒くて綺麗な長い髪、茶色の瞳、白い肌。
あまり見かけない特徴を持つその少女は、王宮にしては少し質素で控えめのワンピースに身を包んでいた。
「・・・ジル様は官僚の方に呼ばれて少し席を外されています」
こちらでお待ち下さい、と抑揚のない、けれど綺麗な声で手近にあった椅子を引いてくれる。
よくわからないけれど、とりあえず引いてくれた椅子に腰をかける。
すると、準備していたのか、ふわりと紅茶の匂いが漂ってきた。
「よろしければ、どうぞ」
かちゃり、と少しだけ音をたててティーカップが目の前のテーブルに置かれた。
「・・・ありがとう」
そう言いながら、彼女の方を何気なく見上げると、
茶色の瞳と目が合った。
真っすぐな瞳が、俺の瞳を覗き込む。
なんとなく、瞳を逸らしにくかった。
「・・・ルイ・ハワード様でいらっしゃいますか」
瞳を合わせたまま、表情を変えずに彼女は言った。
「・・ああ。そうだ」
「ジル様から、伺っていましたが・・・。公爵、と仰っていたので、てっきりおじさまを想像しておりました。
・・・お若いのに大変ですね」
変なことを言う人だな、と思った。
素で言っているのか、遠回しに皮肉を言っているのか、わからないけれど。
「・・・君の方が若いだろう。
君は誰?見ない顔だけど」
俺は少しイラっとして、瞳を逸らした。
「・・それは、失礼致しました。
申し遅れましたが、先日よりこのお城でお世話になっているリン・ディスタードと申します。
所属は騎士団です」
騎士団、という言葉に紅茶を取ろうと伸ばした手を止める。
「騎士団?君が・・・?」
リンと名乗った彼女は相変わらずの無表情ではあるが、「はい」と一言答えた。
過去に女性が騎士団に入団したことはあったが、体格も良く、男勝りの女性だったと聞く。
こんな華奢な若い女性が、なぜ騎士団に・・・
「君は・・・」
話しかけようとした瞬間、遅くなりました、とジルが部屋に入って来た。
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