cocoro
□とある日のキッチンにて
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とある日の夕方。
稽古を終えたアランと、休みで城下におりていたリンはキッチンに立っていた。
城下で珍しい野菜を手に入れた時は、決まってアランと料理を作る。
アランはリンを妹みたいに可愛がっていたし、リンはアランを兄の様に慕っていた。
リンは一年前、ウィスタリアの西部にある大きな都市、キースで大規模な山崩れに遭い、今は城で騎士団として暮らしている。
とはいえ、実際は騎士団を運営するにあたっての事務処理などがほとんど主な仕事だった。
リンは意外と容量が良いようで、慣れてきたせいもあってかめんどくさい書類整理もさくさくとこなしてくれるので、ジル達からも評判はいい。
「ねえアラン、これはどうやって調理する?」
「そうだな・・・シンプルにホイル焼きもいいな」
おおぶりなキノコの調理法についてリンが相談すると、アランは即座に返してくれる。
「ホイル焼きも美味しそう!そうしよう」
黒い長髪を高い位置で結び、膝丈までの淡いブルーのワンピースに黒いエプロンを付けたリンは、こと食べる事に関してはほんとに嬉しそうに笑う。
アランはそんなリンを見て口元を緩めるが、手元では着々と調理が進んでいる。
リンはウィスタリアの西部の味付けや料理の知識はあるが、王宮周辺の料理が気に入っているらしく、アランの料理を好んで食べていた。
このところ、アランとリンは急激に忙しくなった。
なぜなら、先日ついに城下の娘からプリンセスが決まったからだった。
アランは騎士団長として、プリンセスの側で護衛をしなければならない。つまり、アランが担当していた事務系の仕事をリンが引き受けるかたちになる。
「悪かったな。休日もほとんど仕事させちまって・・・」
「別にいいよ。アランだって休んでないじゃない。
私は今日久々に一日お休みもらったし、いっぱい羽伸ばしてきたから、アランも休日とれるときにとってね」
「あ、明日休みもらおうと思ってる。言うの忘れてた」
「わかった。大丈夫」
リンはお皿に盛りつけながら、どこか行くの?と尋ねると、アランは一瞬言いよどむ。
「?」
きょとんとするリンに、プリンセスと城下に行くと告げた。
「え、プリンセスとデート?」
「デ・・っそんなんじゃねーっつーの。騎士としての仕事だ」
心なしか、頬が少し赤くなっているアランはそは言うものの、嫌そうではないなとリンは感じていた。
「ふーん」
「・・・なに」
「べつにー?騎士団のことは心配しなくていいから、どうぞ楽しんで来て下さね、騎士団長さん?」
「なんでにやにやしてんだよ!そんなんじゃないって」
「はーいはい。
あー美味しそうにできました!いただきまーす」
「・・・・」
そんなリンに、ため息をつきつつも口元に笑みを浮かべながらアランもテーブルについた。
ーーアランにもついに春が来るのかな?
なんて思いつつ。
もし本当にそうなったら、今のような時間もなくなってしまうのかな
なんて、少し寂しくもあったり。
ーーーーそんなある日の何気ない出来事。
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