めいこい

□朝からご馳走様でした
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親友の芽衣と共に明治の世へと誘われてから、早いもので2週間が経った


あの日鹿鳴館で藤田五郎という警官から私たち二人を助けてくれたのは、かの有名な森鴎外さんで

この2週間なに不自由なく暮らさせてもらっていた



「おはようございます、フミさん。何か手伝います」

「おはようございます絢飛さん、すみませんいつも。お客人にこんなことをさせるなんて…」



森家の奉公人であるフミさんは、いつも朝日が昇り切らないうちから朝の支度を始める


芽衣と私はこの家にお世話になっている身で、二人ともなにかしていないと落ち着かず、

早く起きた順にフミさんの手伝いをしていた


ちなみに私と芽衣の部屋は別々で、芽衣は鴎外さんの隣、私は春草さんの隣

…今日は私が早かったようだ


フミさんの言葉に返答しながら、朝餉の支度を手伝い始める

私が作るのはお味噌汁

今日のお味噌汁は豆腐と長ねぎか…
うん、日本の味噌汁って感じ

この家では出汁を鰹節からとる

沸騰させたお湯に鰹節を浸し、数分待っていると、辺りが明るくなっているのに気がついた

出汁に具を入れて味噌をとき、フミさんが作ったご飯とおひたし、魚を皿に盛り付けて居間へ持っていく

そろそろ芽衣も起きてくる頃だろうか、と思案していたところに学生服に身を包んだ彼がやってきた

春草さんだ


「おはよう、…早いんだね」

「おはようございます春草さん、今日は私が早く起きたのでフミさんのお手伝いを」

「ふーん」


興味なさげにテーブルにつき、いただきます、と言ってお味噌汁に手をつけた春草さん

そういえばこの時代に来て初めて作ったお味噌汁だ、と内心ドキドキとしながら反応をうかがった

割と自信があったりする

でも一口口をつけた春草さんは、



「………これ、君が作ったの?」


「あ、やっぱりわかりました?」


「…まあ、いつもの味じゃないからわかるよ」



反応が反応なだけに、まずかったのかな…とさっきまでの自信が急速に消えていく

うわぁ…やってしまった
出汁の取り方が悪かったのかな…


軽く自己嫌悪に陥っていた私は、申し訳なくて謝罪を口にした


「ごめんなさい、朝からまずいもの食べさせてしまって」


そういった私に目を瞬かせた春草さんは、なにを思ったのか立ち上がり私の前に立った

不思議に思って、「春草さん、」と声をかけた瞬間、頭に軽く衝撃が走った

…私、撫でられてる…?


「誰もまずいなんて言ってないだろ。…早とちり」

「む、いつもの味じゃないって言われたら、誰だって悪い方向に考えると思いますけど…」

「…まったく、君ってやつは…」


春草さんはそう言って私の頭から手をどけると、そのまま私を引き寄せて、耳元で囁いた


「いいお嫁さんになれるよ」


「!!!」


くすりと意地悪そうな顔をして微か笑んだ春草さんに胸が高鳴ったのは秘密だ


まあ、顔は真っ赤だっただろうけどね







朝からご馳走様でした







「貰い手があれば、だけど。」「一言余計です」
(まあ貰い手があっても渡さないけどね)


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