短編

□充電
1ページ/2ページ

放課後のグラウンド横。


苗字、ちょっとすまんと後ろから神童の声を聞いたと思ったら、妙な後ろからの圧迫感。
ウェーブのかかったグレーの髪が頭の横にあって、腕ごと後ろから抱きしめられていたのだ。
普段の神童からは想像もつかない行動にはてなマークを頭上に浮かべるほかない。
ちなみに神童とは付き合ってはいない。
付き合ったこともない。
何があったのか私にはさっぱり。


「あの……神童?」
「すまない、少しの間このままでいさせてくれないか?」
「いいけど……」

思いもよらない言葉に多少驚きながら返した。
だってダメだって言ったらかわいそうじゃないか。
しかし、そろそろ着替え終わった天馬たちが戻ってくるかもしれない。
今の状況を目撃されれば、間違いなく勘違いされるだろう。
でも、不思議と抵抗しにくかった。
いきなり、優しく抱きしめられたからであろうか?
背中に感じるぬくもりがあたたかく心地がいいけれど、動けない。


「…何かあったの?」
「……いや、何も。」
「本当に?」


神童の表情は髪の向こう側で見えない。
どうしたんだろうか。
最近忙しそうだったから疲れてしまったのか。
すると、神童がおもむろに口を開いた。


「…この間、霧野が、悩んでいるときは好きな奴を抱きしめると少しは安心するって言っていたんだ」
「へー…霧野が……え?」


好きな奴?
神童の発言に、自身の耳を疑う。
いや、霧野か。いやだからそういう問題じゃなくて。
うんん?
神童にとって私は安心できる存在ということか。
ほうほうなるほど。ってぇえ!?
胸の中でいろいろな感情がぐるぐるする。
私が今できることは全身で私の体をとらえた神童を前に固まるしかなかった。

どのぐらいたっただろう。
5分はたってる気がする。
5分抱きつくって結構すごいんじゃないか。
しかも立ったまま。


「……ありがとう」
「ぇ?」


横の頭が上がったと思うと、密着していた体が離れる。
私はすぐに神童と向かい合うように体の向きを変えた。


「すまなかったな、苗字。大丈夫だったか?」
「私は大丈夫だよ。神童こそ最近疲れたまってない?」
「あぁ、もう平気さ。苗字が吹き飛ばしてくれたからな」


そういって微笑んだ神童。
たしかにちょっと顔色がよくなった気もしなくもない。
少し元気を取り戻した神童をみると、安心した。


「私でよければいつでもいいよ?」
「!……ありがとう、その時はまたよろしくな」


神童の顔が赤く染まったようにみえた。
…私のせいかもしれないけど。
じゃあ、またあとで。と走り出した彼の背中にがんばってー!と叫んだ。
そろそろ葵たちも来たころだろう。
背中のぬくもりが恋しくなるけれど、私も動かねば。

_________
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ