短編

□君に贈る特別な魔法
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いくよ、と俺は杖を構えた。
名無しさんは目をキラキラさせてじっと白い鳥の羽を見ている。
杖に集中して深く息を吸い、杖を振った。
ウィンガーディアム・レビオーサ、と唱えると羽がふわふわと宙に浮き出した。
浮き出すと同時に名無しさんの顔が花が咲いたように輝く。

「わー!すごいね一郎太君!」
「これ、1年のとき習った魔法なんだ」
「へー、かわいい魔法だね!」


興奮気味の名無しさんがすごいすごいと言ってパチパチと拍手する。
そんな名無しさんの楽しそうな顔を見ると、とても嬉しかった。
一日の中で一番この時が幸せだった。
この笑顔を見に、毎回学校を昼休みに抜け出して名無しさんに会いに来ているといっても過言ではない。
いつも名無しさんの学校へ来て、屋上で魔法を見せると楽しそうにし、喜んでくれた。


「いいなぁ、一郎太君はこんな楽しい呪文を教えてもらっているんだね。」
「でも、失敗すると大変だけどな。」
「一君が失敗したところ見たことない。」
「名無しさんの前で失敗しないように練習してきているから」
「そっか、ありがとう」


失敗して羽が爆発してしまったりしたら名無しさんをびっくりさせてしまうかもしれないのだ。
現に、友人が唱え方を間違え、羽は浮いたが暴走してしまい、捕まえるのに苦労していた。
俺はそんなかっこ悪いところは彼女には見せたくない。
いつしか、かっこいい魔法使いと思われていたいと、名無しさんに恋心を抱くようになっていた。


「一郎太君、あしたは来れるの?」
「あぁ、来るつもりだ。でも、もし先生に捕まったらアクオスを送るから」
「うん、わかった。フクロウって夜行性なのによく頑張るよね。念のためアクオス君にお水もって待っていよう」
「すまないな、いつも」
「それはこっちの方だよ、毎回来てくれるんだもん」
「俺が名無しさんに会いたいから来ているだけさ。それとも迷惑か?」


まさか。そんなはずない。と頭も手も横に振って懸命に否定する名無しさん。
それに安心した俺は、時間も時間なので箒にまたがる。
じゃあ、またな。と名無しさんに別れを告げ、名残惜しい気持ちを残し、地面を思い切り蹴って青空へ飛び出した。

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