短編

□衝撃
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その声は突然だった。


「やめろっ……宮…か…っ!」
「…丸さん……い…なら…」


部室の方で、かすかに風丸らしき人物の声がした。
みんなは気付いていない様子。
どうしたんだろう。
そういえば部室に忘れ物したと練習を抜けたのは15分くらい前だったかな。
それ以来風丸は戻ってきていない。


「…っ!…やめてくれっ!」


風丸だ。風丸が叫んでいる。誰かになにかされているようだ。
すぐに駆けつけようと思ったが、風丸が苦戦している相手に私なんかがかなうはずがない。
そばにいた豪炎寺についてきてもらうことにした。


「…それは本当なのか?名無しさん」
「うんっ、みんな気づいていないけど、風丸の声がたしかに聞こえた。すぐいかなきゃ風丸が
危ないよ!」


部室まで一心に走り、ガラッと勢いよくドアを開けた。

そこには、信じられない光景が目に入った。

二人の少年。
一人は半裸の風丸で、もう一人は風丸を押し倒し馬乗り状態だった。
その男の子は風丸のズボンに手をかけている。
風丸はそれを必死に阻止しようともがいていた。

後ろから、誰か走ってくる音がする。


「名無しさん!!」
「ぇ……!」


豪炎寺の声がしたかと思うと、急に視界が180度まわって風丸たちに背を向けるかたちになった。
後頭部に手が置かれ、上半身に圧迫感と豪炎寺のぬくもりを感じる。
どうやら、豪炎寺に抱きしめられているようだ。


「離れろ。今すぐ風丸から離れるんだ!」


耳元より少し後ろで怒りがこもったような声が聞こえる。
私はさっきのショックで放心状態だった。


「陸上部のお前がサッカー部の部室でなにをしている?」
「豪炎寺…っ!」


風丸のうめき声がする。
少したって舌打ちが聞こえたかと思うと、私の横から誰かが部室を飛び出していった。


「…大丈夫か。名無しさん。」
「……うん…」


耳元で優しいおちついた声がする。
それで、ようやく我に返った私は豪炎寺からはなれた。


「ありがと…ぁ、風丸はっ!」
「はぁ…なんとか平気さ。豪炎寺もありがとうな」
「いや、俺よりも名無しさんに言った方がいい。駆けつけたのは名無しさんがおしえてくれたからなんだ」
「そうか、ありがとう。名無しさん」


いやぁ、そんなの全然。と言って胸の前で手を横に振る。
それにしても風丸が助かってよかったなぁ。
豪炎寺に抱き締められたというか目を背けさせてくれたというか、びっくりして少しドキドキしちゃったなぁ。
なんて呑気に思いながら、さぁ、みんなが待ってるよと声をかけた。




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