この想いが届くまで
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「…いい加減、どきどきとまってほしいっす」
寮から学園へと向かう途中、夢の彼が忘れられなくてずっと胸を抑えていた。少しでも思い出す度に顔が熱くなってしまって困る。
…これじゃ、クラスメイトに馬鹿にされてしまう。
「赤根ー!おはよう!」
深いため息を吐き、とぼとぼと歩いていると肩に腕を回された。ぐっと密着するこの男は赤根の幼なじみの瀬谷 大翼(せやたいき)だ。
「おああああおはぁあぁあっす!!!」
油断していた俺は叫ぶように挨拶してしまい、大翼も流石に吃驚したのか即座に離れた。その声に近くの生徒も走って逃げる始末。
「どっどどどうした!?とりあえず落ち着け!ひっひっふーだ!!」
大翼に背中をさすられ、言われるがままにその呼吸法をした。
でも、あれ?これなんか違うんじゃ…と思ったら横から元気よくツッコミが入れられた。
「君たちそれラマーズ法だからー!!はっ、もしかしてまじで妊娠してるの!?そうなのね!?よぉおし!こーちゃん応援しちゃうゾ☆」
「浩介さんんん!?ごごご誤解っす!!違うっすよぉお!!」
通りかかった高嶋 浩介(たかしまこうすけ)…通称こーちゃんに意味不明なことを言われ、余計に混乱してしまった俺はまた叫んだ。
慌てて説明すれば「えー違うのー?つまんなーい」とブーイングが返ってきたが、つまらなくていい。
「…滝塚。悪い、ウチの浩介がまた変なことを言ったみたいだな」
いつの間にか隣でそっと見守っていた野神 知憲(のがみともあき)センパイが申し訳なさそうに眉を下げて俺に謝ってきた。
それから、浩介センパイの首根っこ掴んで引き摺りながら先を歩んでいく。
「ぁあーん!また俺を犯す気なのねー!なら今度は野外でよろぴくぅうぅ☆」
青少年が聞いてはいけないようなことを恥ずかしげもなく叫ぶ浩介センパイには流石としか言いようがないなと俺と大翼は顔を見合わせて苦笑した。