短い夢。

□キリリク!マファアの女。
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リクエストマファアの女。
激甘裏。@

その日のMr.チャンは随分とご機嫌だった。バスルームから静かに口ずさむ歌が聞こえる。優しく響くテノール。

バスルームの声は案外部屋に聞こえている事をMr.チャンは気付いているのだろうか。まあ、あの人の事だ。気付いていないはずがない。

「一緒に入るか?」

バスルームに向かう時、Mr.チャンはそう言った。私は以前の一緒にお風呂の一件以来、強引にでなければ「先に入ってしまいましたので。」そう言って断り続けていた。一緒にお風呂は、決して嫌いではない。ただ恥ずかし過ぎてつい断ってしまうのだ。

そんな私を見て最近のMr.チャンは優しく微笑む。君は可愛いな、とその目がいってくれているようで、余計に恥ずかしくてとてもじゃないがイエスとはいえなくなってしまう。

バスルームから出てきたMr.チャンはいつもようにバスローブを纏って笑みを浮かべていた。私を見つめながらこちらへ歩み寄って来るとすぐ隣に腰掛けて私の顔を覗き込んでくる。

水も滴るいい男。

風呂上がりの姿で、そんな目で、こんなにも近くで、見つめないで欲しい。心臓がもたない。

いつまでも慣れない貴方のその仕草、姿、愛しさを込めた視線に私の心臓は破裂してしまいそうになる。

そしてそれは確信犯だ。
そんな私を見て楽しんでいる。

Mr.チャンは私の肩を優しく抱き寄せ、耳元で囁いた。

「君が愛しくてたまらん。可愛くて可愛くてどうしたらいいかわからんくらいだ。」

Mr.チャンの甘い言葉は私の脳を痺れさせる。甘く痺れて彼しかみえなくなる。欲しいのは貴方だけ。

そして貴方もそうだと、言ってくれている。幸せとときめきで胸が痛くてたまらない。つぶれそうだ。

「私も、です。Mr.、貴方が愛しくて、愛し過ぎて、どうしようもありません。」

そう答えた私を見て彼は一層楽しそうに笑みを深めた。

「嬉しいことを言ってくれる。歯止めがきかなくなっても知らんぞ?」

歯止めなどありはしないくせにそんな事を囁く。囁かれた声で耳から全身に喜びと快楽が広がってしまう。

「そんなに可愛い顔をせんでくれ。ただでさえ可愛くてしかたねぇのに。」

また耳元でそう囁く。ゾクゾクと鳥肌が立つ程に彼の言葉は私を優しく支配していく。

嬉しくてたまらない。これ以上、貴方を愛してしまっていいのか、わからないのに。ただその声に、言葉に、貴方に、全てを優しく奪われていく。

「歯止め、なんて、なくても、いい、ですよ…Mr.チャン。貴方の全てを、愛しています。」

耳まで真っ赤に染め、小さく震えながら彼女はそう言った。自然と顔が緩むのがわかる。俺は今他人には見せられねぇ様なニヤけた阿保面をしてる事だろう。だが君にだけはいい。君にだけはそんな俺でさえ、知っていて欲しい。

意を決した様に彼女はグッと拳を握り、俺の方へ顔を向けて頬にキスをした。そしてすぐにうつむく。俺は彼女を抱き寄せて頭を撫でながら言った。

「頑張ってくれたのか?今どんな顔をしてるか見せてくれ。」

恥ずかしさでうつむいた事をわかっていてそんな事しか言えない。楽しさをにじませ笑いを含んだ声を隠す事もせずに。

彼女はピクリと身体を震わせ、ほんの少し首を振った。それからゆっくりと俺を見上げる。

本当に可哀想だとは思うんだが、俺は君のその癖が好きなんだ。反射的に嫌だと首を振り、それを抑え込んで、俺の為に、俺の望みを叶えようとする君のその姿を何度でも、飽きる事なく見たくなって、いつもこうして嫌がる事ばかり要求してしまう。

見上げる彼女の顔は思っていた通り、どうしようもないほど恥ずかしいと、涙を浮かべて俺の目を見る事が出来ずに瞳をゆらしていた。

「その顔、わかるか?とんでもなく色っぽいんだ。なあ、どうしてだろうな。君のその姿が、俺は可愛くて仕方ない。君のする事は全て可愛い。惚れた欲目か。こういうのを色ボケというんだろうな。」

そう言って彼女の唇に、わざとゆっくり唇を近付け、重ねた。

ゆっくり近付いていく時、彼女は逃げたい衝動をこらえ、震えながら、ギュッと強く目を閉じる。

意地悪ばかりしちまうのは君のそんなところが可愛すぎるからだ。俺ばかりが悪いわけじゃなかろう?なぁ?

そんな自分がおかしくてたまらん。こんなに楽しくて幸せな事があるとは、そうだな、思ってはいなかった。キスを繰り返す度、彼女はビクっとしては、自分を抑え込む。

そしてだんだんと甘い声を漏らし始めるんだ。その声に、彼女は更に自分を追い込んでいく。だから俺はこう言うんだ。

「可愛い声だ。我慢しないでくれよ?沢山聞かせてくれ。」

また彼女はビクっと震えて小さく首を振った。ついこらえてしまう声を吐息ともに漏らし続ける。

俺が望むものを差し出し続ける。
きっと君は俺が望めばその心臓さえ、自らえぐり出し俺に差し出してくれるんだ。そう信じさせてくれる君の言動の全て。信じる事が、この俺にもまだ出来ると、教えてくれる君という存在。

愛しさが溢れ出す。
そんな言葉では足りない程に。

「好きだ。」

彼女を強く抱きしめそう言った。言葉にする事なんぞできはしないこの気持ちを、こんなありきたりの言葉で伝える。

「君が好きだ。」

繰り返し同じ事を言う以外に方法がない。出口のないこの想いは君に伝わるのだろうか。どこまで伝わっているのだろうか。腕の中でビクっと何度も震える彼女が俺の胸にすがりついてこたえてくれる。

伝わっていると。

「好き、です…Mr.チャン、あいして、います…」

すがりついて彼女はそう言った。どんな喘ぎ声よりも色付いた声で。

抱きしめる力を強めると彼女は苦しさと、喜びの混じり合った吐息をもらす。どうすりゃいい。こんなにも君が愛しい。どうすりゃいいんだ。

「…うれ、しくて、どうしたら、いいのか、わかりません…」

君も同じなのか。どうすりゃいいのかわからねぇ。君がここにいるだけで、それだけで良いと、そう思うのも嘘ではない。このまま抱き合ってただ慈しんで、そんな夜もたまには良いだろう。だが、もっと欲しいと湧き上がる欲望を抑える気にもなれねぇ。

全くらしくねぇ。どうすりゃいいのか、わからんなどと。
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