ロック×レヴィ

□ロックの場合。その七。
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目の前には缶ビール。
飲み口の開けられたバドワイザー。

「飲めよロック」

殺気立ってこちらを睨めつけながらレヴィがそう言った。思惑がわかり易すぎて頭が痛い。

「なぁレヴィ、この中に例の薬を入れたんだろ?」

「だったらどうしたってんだよ」

さすがにバレないと思ってやっていたわけではなかったらしい。そりゃあそうだ。レヴィは短絡的なところもあるが決して馬鹿ではない。

「どうって、嫌だよ、薬が入ってる酒なんか飲みたかない」

「あたしは飲んだ」

俺の言葉を食い気味にレヴィはそう言った。あの日のことをなかったように振舞っていたのはレヴィ、お前もだったろ?それなのに突然突き付けてくるんだな。

「そ、それは、でも、不可抗力だったろ?レヴィだってあのあと、気にしてないって...」

しどろもどろに言い訳をしながらも、俺は直感的に理解していた。

今夜のレヴィは逃がしてはくれない。

俺の無様な言い分など聞いちゃあいない。何がなんでも必ず己の目的を果たす、そういう目をしている。

「飲んで、そして、どうする...」

「あたしの前でマスターベーションさ。ロック、お前がファックを嫌がるならな」

思っていた通りの返事を聞いて腹の奥が焼け付くような、胸の底が焦げ付くような、痛みを伴う熱が灯った。

レヴィは馬鹿じゃない。
馬鹿なのは俺の方だ。

バドワイザーを手に取って口に付ける。レヴィに好きだと告げた日から今日までの全てを、思い出せる限り、脳裏に浮かべながら飲み干した。

『一般的な恋愛の手順』を理想化して、そんなものを押し付けようとしていた俺の方こそ本物の馬鹿だ。

空いた缶をテーブルに置いてからレヴィを見ると、ほんの少し、驚いたような、どこか怖がっているような、そんな顔をしていた。

ああ。

「本当にレヴィは可愛いなぁ」

言葉にするつもりはなかったけれど、するりと口から零れてしまった。

「...なら、ファックするのかよ」

これは思いがけない反応だった。こんな可愛すぎることを言ってくれると思うか?思わないさ。可愛いと言ったら必ず拳が飛んできていたんだから。

俺が押し付けてしまった手順は、無意味ではなかったのかもしれないと思えた。少なくとも、拳の代わりにこの言葉を言ってもらえる程度には、レヴィの心に触れられたのかもしれない。

こみ上げる衝動のまま、抱きしめた。レヴィは、拒まなかった。

好きだ愛してる可愛い、何度言っただろう。言いたくなった分だけ全部、ひとつも抑えることをせずにレヴィを抱いた。レヴィはうるさい、やめろ、黙れ、とばかり言っていたけれど本気で突き放すようなことはしないでいてくれた。それが嬉しくて、余計にたくさん好きだ可愛いと言ってしまったような気もする。

終わったあと、シャワーを浴びたレヴィは「お前とのファックはしばらくごめんだ」と心底疲れたという顔で言った。

しばらく、という単語だけで俺は嬉しいと思えてしまう。だけどちゃんと訂正をしておかなきゃならないことがひとつ。

「レヴィさっきしたのも今後しばらくあとにするのも、ファックじゃなくてセックスだと俺は思うよ」

俺の場合、レヴィ相手に恋したなら、このくらいは図々しくいかないといつまで経っても始まりさえしないって、そう思ったんだ。やっとわかったのかもしれない。薬まで使わないと気が付けないなんて情けない話だけど。

いちいち気持ち悪いんだよてめぇ、という可愛い彼女の声がして、目の前にチカチカといつもの星が散った。

ロックの場合。了。



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