ロック×レヴィ

□ロックの場合。その4
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ロックの場合C

先に事務所に帰って来ていたロックを見てレヴィは言う。「…ダッチとベニーは?」ロックは答える。「予定ではあと2時間くらいは帰ってこない。」それを聞いてレヴィは怒りを爆発させる。「テメェ、昨日はよくも!」怒鳴るレヴィからとっさに逃げて「ああでもしないと出来なかったんだよ!」とロックは言った。「テメェの考えるってなぁあんな姑息な手を使うって事か!ええ⁉︎」「だって殴るだろ!」「当たり前だ!!」「俺は殴られないでキスしたかったんだ!」ロックが大きな声でレヴィを見つめて言うとレヴィは一瞬言葉をつまらせた。

予定より早く事務所に戻って来たダッチとベニーはその痴話喧嘩に遭遇し、ふたりは何の合図もなく、そっともと来た道を戻った。車に戻るとベニーが言う。「やれやれ、あのふたりやっとか。」「ああ、どっちに転んでもおかしくねぇからな。ま、仕事に支障がなけりゃ俺はなんでも構わねぇさ。」「僕も。あ、あと、さっきのみたいなのに巻き込まれるのもごめんだね。」「まったくだ。」ふたりは予定の時間までそんな話をしながら時間を潰す事にした。

「…だからって騙し討ちなんざ汚ぇ手使いやがって。大体後から余計に殴られるだけだぜ。」言葉をつまらせてから、取り繕うようにレヴィは言った。「ああ、いいよ。」ロックはレヴィの前に立ち目を閉じた。「は?」レヴィから気の抜けた声がする。ロックは言った。「だからいいって。ほらどっからでも来いよ。」「な、なんなんだよお前…。」「俺は、キスした後で殴られたくなかったんだ。余韻に浸りたいからな。でもその後殴られるのはもう仕方ない。惚れた相手がお前じゃそれはもう諦める。だからほら、殴っていいよ。それとあんな方法でキスしてごめん。」うろたえるレヴィにロックはそう言った。殴ろうと握られた拳が行き場を無くして震える。「…っ!ずるいぜロック!テメェはいつも!」「いつも?ずるいって何が?俺は正々堂々やってるよ。ただそれだけだ。それをなんでずるいと思うのか、そこんところ、レヴィ自身の問題だろ?」「うるせぇ…。」「でもそういうレヴィが俺は好きだ。だから殴られる覚悟もした。それをずるいと言われても困るよ。」「だから!そういうところがずるいってんだよ!正論並べやがって!!逃げる隙がねぇじゃねぇかっ!!」レヴィは両手を握り締め、下を向いて震えながら怒鳴った。その声は泣いているようにも聞こえる。ロックはレヴィを抱き締めた。「暴れないでくれ。出来れば殴らないでくれ。ごめん。追い詰めたいんじゃないんだ。でも、逃がしたくはない。」レヴィは固まったまま動かない。「ごめんレヴィ。好きになってごめん。でも俺レヴィがいいんだ。だから頼むよ。逃げないでくれ。」固まったレヴィの身体から力が抜ける。深く息を吸い吐き出すとロックの肩をポンポンと叩いた。「参った。降参だ。わかったよロック。もう逃げたりしねぇ…だから、離れろ。」突然殺気に満ちたレヴィから本能的に離れ壁まで後ずさる。「レ、レヴィ?」ロックに向かってゆっくり歩いてくるレヴィはまるでドンパチの前の様だった。まさか撃たれる⁉︎そこまでは考えてなかった、わけじゃない。なにせ相手はレヴィだ。照れ隠しに撃たれることさえロックは想定していた。殺気を放ったレヴィがロックの横に手をつく。壁ドンは、俺がされる側か。ロックはそんな事を考えて、そう言えばバラライカにも壁ドンされた事があるなぁとどうでもいいことを思い出していた。顔を近づけてレヴィは言う。「逃げねぇで覚悟決めろって事だろ?わかったよロック。キスしたけりゃ言えよ。覚悟決めてしてやるから。」そう言ってレヴィはロックにゆっくり唇を重ねて舌を入れた。ロックは、違う!そういう感じじゃない!命のやり取りと同じ覚悟で来ないでくれ!そうじゃない、それじゃない、ああもう、なんて面倒な女なんだ。そう思いながら、レヴィの舌を絡めそれはそれとしてキスを堪能した。レヴィは唇が触れそうな程の距離だけ離れ「これでいいんだろ?」と言った。ロックはその唇に軽く触れるだけのキスをして「悪くないけどこれじゃないよレヴィ。こういう類の覚悟じゃないんだ。」「へぇ?じゃあどんな覚悟が必要なんだよ。言ってみな。」「レヴィ今のキスで感じたか?」「はぁ?なんだそりゃ。」「だろうな。お前のその覚悟は何も感じない、恐れない覚悟だ。だから地の果てまで戦える。お前はそう言った。違うんだレヴィ。その覚悟とはまったく違う。逆だ。感じて恐れてそれでも向き合う、俺が欲しいのはそういう覚悟だ。」レヴィの体から殺気が消える。それと同時にロックから離れた。「ったく、ワガママ言いやがって。いいじゃねぇかどっちだってよ。キスしてファックして好きだと言ってりゃそれでいいだろ。」「良くないよ。俺はそんなものが欲しいんじゃない。何も感じないキスもファックも言葉も!お断りだ!!」レヴィは黙ってソファに腰掛け「なら無理だ。アタシには出来ねぇ。他をあたってくれ。」そう言った。ロックの胸の奥がひどく痛む。「さっきも言ったろ。他じゃ駄目なんだ。俺はレヴィがいいんだよ。それはあんまりだ。自分を守るために俺の気持ちを踏みにじるのか?他をあたれ?なんだよそれは!今のはあんまりだ!他で良けりゃわざわざこんな事しやしない。レヴィ、俺を好きだと言ったのは、嘘か?」痛む胸をこらえロックは必死でレヴィの殻をこじ開けようとする。「…嘘じゃねぇ。でも駄目だ。アタシには無理だ。…嘘じゃねぇから、無理だロック。」硬い殻に閉じこもり決してそこから出ようとしない。閉じると決めたら絶対に開けない。割れない。その殻はレヴィの処世術だ。ロックはなおもその殻に挑む。「俺を好きだから、無理なんだな。ならいいさ、俺はお前が好きだから無理だ。そんな理由で諦められない。お前は俺が好きで俺はお前が好きだ。それなのに何故俺が他をあたらなきゃならない?お前は俺が他の女と何がどうなってもその殻に引きこもって乾いた笑いでももらすんだろうさ。好きな男と、いや、自分の感情と向き合うのが、そんなに怖いのか?知ってたけどさ、レヴィはそこらへんとことん弱いよな。普通の女の子より全然軟弱だ。」「黙れよ。」「そんな弱いところ持ったまんまでこの先やってけるのかよ。そうやって逃げて表面だけ強そうに装って、お前流に言えばな、お笑いだよレヴィ。」「黙れ。うるせぇ。無駄だロック。何もかも無駄だ。無駄な事はやめろ。なんの得にもなりゃしねぇ。」ずっとレヴィを守ってきた硬い殻はそうやすやすと壊せるものではない。頭を冷やせ。ロックは静かに息を吸いはきだす。そして殻にそっと手を触れるような気持ちで言った。「俺、諦めないよレヴィ。急がせて悪かった。俺が急ぎ過ぎたんだ。ごめん。ゆっくりでいい。いくらでも待つ。お前が俺を嫌だと、嫌いだから無理だと言うなら諦めるよ。しつこすぎて嫌いになったら言ってくれ。それまで俺、頑張ってみるよ。」そう言ってロックは少し笑って見せた。

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