ロック×レヴィ

□ロックの場合。その3
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ロックの場合B

映画館に着いてまずは軽食からと席をレヴィに取っておくよう頼んだロックは「俺はやっぱりホットドッグにするけど、レヴィはなんにする?買ってくるよ。」そう聞いた。レヴィはロックを嫌な顔で見て「同じでいい。早く行け。」そうふてくされたように座って言った。顔を見てくれるようになったのはいいがあの表情。さすがのロックもネガティヴになってくる。本当に嫌なのか?どうすりゃいい?いや。弱気になるな。レヴィは嫌なら絶対に来ない。だからどんな表情でもどんな事を言っても、そこにいるという事は大丈夫だという事はなんだ。チャイナボールを食べながら、好きだと言ってくれたレヴィを思い出し、ロックは気合いを入れ直した。「おまたせ。結構うまそうだよ。」トレイをレヴィの前に置きロックも席に着いた。レヴィは相変わらずふてくされた表情でむしゃむしゃとホットドッグに八つ当たりするように食べ始める。ロックは、これは照れ隠しなんだ、これは照れ隠しなんだ、これは照れ隠しなんだ、そう自分に言い聞かせた。そう思ってレヴィを見ると物凄く可愛くみえた。ロックは自己暗示に成功してまた笑いをこらえる。あー、可愛い。レヴィはロックを睨みながらホットドッグを平らげジュースを飲んだ。まわりにはデートらしいカップルが幾人もいて、自分達もその中の1組なのだと思うとテーブルを蹴飛ばしひっくり返して大暴れしたくなる。「なぁロック。」レヴィはタバコを出しながら言った。「楽しいか?コレ。」火を付けてロックに視線を戻す。「んー、俺は楽しいよ。なかなか難しいと思ってるけど楽しい。レヴィが楽しいともっと楽しいんだけど、あまりうまくいかないな。せめて映画が面白くて予約したレストランが美味かったら少しは機嫌なおしてくれよ。」ロックは笑ってそう言った。なんだコイツ。レヴィは思う。馬鹿じゃねぇのか。楽しい?コレが?何がだ。ロックのクソボケなに笑ってんだ。意味がわからねぇ。わかりたくもねぇ。黙ってタバコを吸うレヴィを見てロックは困った顔をして「ともかくチケットを買ってくるから、このままここで待っててくれよ。」そう言って席を立った。チケットを買いながらロックはこれで戻ったら居なくなっていた、という事なら本気で嫌気がさしたという事。そこにいるなら大丈夫だ!祈るような気持ちで席に戻るとレヴィは先ほどと同じ様につまらなそうにタバコを吸い座っていた。ロックは心の中で小さくガッツポーズをした。第2関門突破。そんな気分だった。これが楽しいかと言えば、それなりに楽しいのがロックだ。難問をクリアしていくのは嫌いではない。それにレヴィとデートをしている、それだけで今のロックは楽しかった。「お待たせ。そろそろ前の回が終わるから席を取りに行こうか。レヴィはどこらへんの席がいい?俺は中央前方の席で観るのが好きなんだけど。」そう言ったロックをギロっと殺しそうな目で睨んでレヴィは立ち上がる。「どこでもいい。行くならさっさとしやがれ。」そう言って歩き出した。レヴィはロックを殴りたくてたまらない。今、ロックが好きだと言う単語を口にした瞬間に、自分に言われた時のことがフラッシュバックしたからだ。さすがのロックも今何故あんなに恐ろしい目で睨まれたのかわからなかったがともかくレヴィと並んで歩き出す。これで映画がハズレだったら、レヴィはどんな行動に出るだろうか。いや、アタリだったとしても難関は続くのだと思いながら席を探した。「あ、ホラ、あの辺なんかが俺は…」「行くぞ。」ロックの言葉を遮ってその席にレヴィは足早に歩いて行った。その2度目の行動に共通する点、そこにロックは気が付いて、嬉しさがこみ上げた。しかしそれと同時に危険な程笑いが込み上げる。ドカッと席についたレヴィの横の席に荷物を置くと「俺ちょっとトイレ。」そう言ってロビーに出た。ついでに本当にトイレに行き、今のは危なかった。と鏡を見ながら思う。ニヤァっと頬が緩む。駄目だ!駄目だ!笑うな!この笑顔は駄目だ!絶対にレヴィは怒って帰ってしまう。しかし、ロックは耐え切れず洗面台に手をついて肩を震わせながら声を殺して笑った。

席に戻るとレヴィはイライラした様子で火の付いていないタバコを噛み締めていた。「ごめん、混んでてさ。まだ始まってなくて良かったよ。」そう言いながら席についた。レヴィの機嫌は最悪だった。なかなか戻ってこないロックに、まさか帰ったのでは?自分があまりにも態度が悪く嫌になったのか?と一瞬でも考えてしまったからだ。「あー、死にてぇ。」レヴィが小さくボヤくと同時に上映のブザーが鳴りその言葉はロックには聞こえなかった。

映画はなかなか面白かった。気分最悪のレヴィでさえ楽しめるほど。ロックも映画を楽しみ時折チラっとレヴィを盗み見た。映画が進んでいくとレヴィの表情は少しずつ和らいでいく。面白いのだとわかってロックはホッとした。

「なかなか良かったな。」映画が終わって場内に明かりが戻った時にロックは言った。「ああ、けどあの妹役の女だけはミスキャストだな。鬱陶しい演技しやがって。」「確かにかなりわざとらしい演技だったよな。もう少しさっぱり演じた方が良いと俺も思う。」「だろ?大げさに可哀想ぶりやがって。アレが出てくるとシラケたぜ。」そんな風に映画の感想を話しながら映画館を出て車に向かう。ロックは楽しかった。デートでやっと普段通りのレヴィに会えたからだ。レヴィはデートだという事をあまり意識しなくなっていた。車に乗り込み「あー、腹減った。何食わしてくれんだぁ?オイ。」とからかうように笑って言った。「中華だよ。なんだかエビチリとか点心とかが食べたくてさ、美味い店があるって聞いたからそこを予約しておいた。時間も丁度いい頃だ。行こう。今日は俺持ちだ。たらふく食べて飲んで構わないよ。」ロックはにこにこしてそう言いながら車を走らせる。その顔を見ていたらレヴィはまたイライラしてきた。いや、厳密にはこんなに楽しそうに自分といるロックを見て嬉しいと思ってしまった為にイライラしてきたのだ。レヴィはふいっと窓の方に顔を向けてタバコに火を付ける。タバコは色々と便利な物だ。例えば今のように顔を背ける理由になる。「まともな中華か。ずいぶん食ってねぇな。」「だろ?俺もそうなんだ。久しぶりに食べたくなって。レヴィ中華で良かったかい?」「…ああ。」「そうか、良かった!」ロックは楽しそうに話す。レヴィはどんどんイライラしてくる。厳密にはどんどん胸が苦しくなって来ていることに腹を立てていく。「あーっ!はらへったなーっ!!」苛立ちを誤魔化す様にレヴィは大きな声で言った。ロックは笑って「もうすぐだよレヴィ。いっぱい食ってくれ。」そう言って目的地へ急いだ。ロックの予約した店は高級すぎず、また普段どおりすぎず、適度なオシャレ感のあるリーズナブルな中華料理店だった。レヴィは舌打ちをする。ソツがなさすぎて可愛げがねぇ。なんだコイツ。どんだけ下調べしてやがんだクソッタレ。気持ち悪りぃんだよ。「レヴィ、また声、もれてる。調べたよ、いいだろそのくらい。喜んで欲しかったんだよ。」ロックは少し怒ったように照れて言った。「ロック、なんなんだお前。」席についてレヴィが言う。「何ってなんだよ?」ロックは少しだけ苛立って問い返した。「ここまでやってなんになるってんだ。」「何ってデートでレビィに喜んで欲しかった。それだけだ。さっきも言ったろ。」そう答えたロックにレヴィはため息をつき「あのなぁ…ロック、いちいち、ハッキリ言い過ぎなんだよ。」うつむいてまたタバコを咥えた。「聞いたのはお前だレヴィ。
まあいいだろ?映画はアタリで中華料理は久しぶりに食べたくてドレスコードもないそれなりにいい店だ。噂どおり料理が美味いといいなレヴィ。」ロックは笑ってそう言った。レヴィは小さく「ああ。」と返事を返す。ロックは思う。レヴィは思っていた以上に面倒臭い。だが思っていた以上に可愛い。そして自分は思っていた以上にレヴィが好きだ。いいさ、面倒臭いのは嫌いじゃない。というか好きなのかもしれない。でなければこんな面倒な女に惚れやしない。料理が次々と運ばれてきてそれらは皆とても美味しかった。レヴィもロックも味に夢中になりたらふく食べて飲んで笑って料理を取り合いながら楽しい食事の時間は過ぎていった。

「うあー、腹が苦しい…」「俺もだ…さすがに食べ過ぎたな。」そう言ってふたりでまた笑った。「なあ、腹ごなしにちょっと歩かないか?近くに行きたいところがあるんだ。」「あん?なんだよ。」「ロアナプラが見下ろせる高台さ。なかなか良いところだよ。腹ごなしに丁度いい散歩になる距離だ。」「夜景ねぇ、お前ほんっとによくやるな。」レヴィは苦笑してそう言った。「ちょっとやりすぎかな?」ロックは少し恥ずかしくなって頭を掻いた。「いや、いい。せっかくだ。行こうぜロック。」そう言ってロックを振り返るレヴィは素直にニヤリと嬉しそうに笑っている。ふたりは何気ない話をしながら歩いた。木々がひらけた丘に辿り着く。「へぇ…。」レヴィは感嘆の声をもらした。「なかなかだろ?」ロックは夜景とそれを見るレヴィを眺めて満足そうに言う。「まあな、ロックにしちゃ、今日は頑張ったんじゃねぇか?ははっ!」レヴィはそう言って笑った。「レヴィ。」ロックは真剣な顔をして呼んだ。「ん?」レヴィが振り返ると「キスしていいか?」と聞いた。和らいだ表情だったレヴィの顔がみるみる赤く染まり怒りの表情になる。「…っ!んな事聞くんじゃねぇよ!!」「だって言わないでしたら殴るだろ⁈」「当たり前だ!!」「それが嫌だから聞いたんだよ!」「…っ!じゃあすんな!」「したいから言ってるんだろ!」「…っ!!」不毛過ぎるやり取りに最終的にはレヴィが言葉をつまらせ、ロックはため息をついた。「悪かったよレヴィ。もっと考えてみる。せっかく楽しかったのにごめんな。」ロックは素直に謝った。レヴィは苛立ちを抑え深呼吸して「いや、もういい。今日はまあ楽しかった。帰ろうぜロック。」そう言うとロックの肩をパンと叩いて歩き出した。帰りの車内はなんとなく気まずいようなくすぐったいようなそんな空気でどうでもいい事をぽつりぽつりと話しては短い沈黙を繰り返した。

「じゃあな。」そう言ってレヴィは車から降りアパートの階段に向かう。「あ、レヴィこれ。」ロックは運転席から窓を開け下を見て言う。「あん?んだよ、どうした?」帰りかけていたレヴィがロックの目線の先を追って車に近付いてくる。「いや、これなんだけど。」そう窓の内側に目線を落としたままロックは言った。レヴィがそこを覗き込んで「なんだよ?どうかしたのか?」そう言った時、ロックは顔を上げ、姑息な手段を使ってキスをした。「んなっ⁉︎」レヴィは車から後ずさる。「ごめん、どうしてもキスしたかったんだ!出来れば明日殴るくらいで勘弁してくれ!」そう言ってロックは車で走り去っていった。一人取り残されたレヴィはブルブル震え「ロックーーっ!!テメェーーー!!ぶっ飛ばす!!覚えとけよーーー!!」と怒りに満ち満ちた雄叫びを上げた。その声は窓を開けたままのロックにも聞こえる。ロックは笑って「忘れないよ。あーあ、まいったな。明日、どこ殴られるかなぁ。」と独り言をいい、出来れば股間は避けて欲しい。そう思いながらまた笑った。

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