ロック夢。

□片恋旅行記。
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片恋旅行記。

「Mr.ロック、急に呼び出してすみません。」彼女は俺の姿を見つけると駆け寄ってそう言った。

「いや、かまわないよ。特に用もなかったから。君はいつ、またこの街に?」そう聞くと「今朝、タイ市街からレンタカーで着いたばかりです。あらかじめ予約しておいた、まあ、それなりに真っ当なホテルに直接向かいましたので、危険な事はありませんでした。」と彼女は答えた。

彼女は先月、厄介事に見舞われそれを解消する為にロアナプラへ急ぎ送り届けて欲しいと依頼してきた女性だった。手際よく厄介事に始末をつけると、また帰りも送り届けて欲しいと依頼され、彼女を見送ったのは、先月末の話だ。

俺は彼女に連絡先を教えていた。悪い癖だがロアナプラに単身乗り込んでいく彼女に何もしないではいられなかった。何か助けが欲しかったら、出来るだけ協力したい、もし何かあったら遠慮なく連絡してかまわないよ。使わなくて済むならそれが一番だ。そんな事を言ってプライベートな連絡先を交換していた。

結局彼女はその連絡先に厄介事について連絡してくる事はなかった。が、つい三日前、もう一度お会いしてお話したい事があります、とメールで連絡をして来た。

「それで話したい事って言うのは?なにかトラブルかい?」俺がそう言うと彼女は少しうつむいて「いえ、そう言った事ではなくてですね、あの…」そのまま黙り込んでしまった。

えーと、これは、その、なんだ、あれ?なんか変な感じだな、この雰囲気。

彼女は意を決したように俺を見つめ「Mr.ロック、貴方にもう一度会いたかった。その、それだけなんです。」

えーと、それはどういう意味で??俺はなんと答えればいいかわからず、おそらく間抜けな顔をしていた。

「こんな事言われても困りますよね、そうですよね、えーと、その、つまりですね、あの、Mr.ロック、貴方の事が、す、好きになってしまったんです。」

ええぇ?「あ!でもあの!わかってますから!Ms.レヴィがいる事も、貴方にそんなつもりは全くない事も、あの、わかってますから!大丈夫です!…ただ、しばらく、この街に滞在する事にしたので、少しだけ、会って頂ければ、と…あ、でもそれもやっぱりあれですよね…良くないですよね…すみません。」

彼女は慌ててそう言ってまたうつむいて黙り込んでしまった。自慢じゃないが、俺はモテない。いわゆる良い人どまりのタイプだ。告白されるのは、その、初めてとは言わないけど、そうそうある事ではない。

ええぇー、ど、どうすりゃいいんだ?彼女の事をそう言う風に見た事も考えた事もない。だけど、なんだろうな。好きだと言われると、どんどん気になってくるというか、目の前の彼女が可愛く見えてくるのは馬鹿な男のサガだろうか。

「あ、いや、謝らなくていいよ。というか、嬉しい、し。あと、その、レヴィは、その、そう言うんじゃないから、まあ、うん、そう言うんじゃない、よ。だから、その、ここにいる間、少し会うとか、そのくらいの事は、全然問題ないんだけど、その、正直に言えば君を特別そう言う風に見た事はないんだ。でも、その、それでも良ければ、時々会うくらいなら…。」

自分でも何を言っているのかよくわからない。彼女はうつむいていた顔を少し上げて俺をみて「…本当、ですか?」と頬を染めて言った。

あれ、どうしよう、可愛いな。

「あ、ああ、本当だよ。それくらい何の問題もない。」そう言うと彼女は嬉しそうに笑って「ありがとうございます。本当にそれだけでいいんです。休暇をとって1カ月ほどここに滞在していますので、会える時があったら連絡して頂けますか?私は特に他に目的もないので。」そう言った。

こんな街に何の目的もなく、1ヶ月も滞在する。唯一の目的は、俺と、会う事…。

ええぇー、そんなに?
あ、俺、今結構ときめいてる。

「あの、Mr.ロック?」「あ、はい、なんだっけ?」すっとんきょうな声で返事をしてしまった。彼女は少し笑って「この後、良かったら食事でもどうですか?とお誘いしたんです。」と恥ずかしそうに目線をそらした。

あれー?可愛いよ?どうしよう。嬉しい。「あ、ああ、もちろんかまわないよ。」そう答えるとまた彼女は嬉しそうに笑った。

それから度々、彼女と会って、お茶をしたり、食事をしたり、映画を見たり、まあ、そんな具合に過ごしていた。ハッキリ言って俺は浮かれている。彼女はいつもとても嬉しそうに俺をみて楽しそうに他愛もない話をしては笑っていた。

時々、ほんの少し切ない表情をするのが気にかかったが、俺は多分、彼女を本気で好きなわけじゃなくて、いや、もちろん嫌いじゃない。可愛いと思うし、一緒にいて楽しい。ドキドキしないわけじゃない。

だけど恋愛対象としてそこまで好きになったというわけではないのかもしれない。好かれて嬉しい、それが一番強いんだろう。だからその切なそうな彼女に言える事はなかった。

「最近ずいぶん楽しそうだな。」事務所でピザを食べながらレヴィはそう言った。「そうかな?」別に隠しているわけじゃないが、ここの仲間たちはプライベートな話を聞いてこない。だから特に言ってもいないだけだった。「ふうん。」レヴィはさして興味も無さそうにそう言った。きまぐれに聞いてみただけだろう。

「ヘイ、レヴィ。いいのかよぉ。」教会で酒を飲みながらポーカーをしているとエダが言った。「何が?」アタシはいい手がちっともこねぇなぁと思いながらそう言った。

「何がじゃねぇよぉ、あの色男。最近女と出歩いてるぜ?いいのかよぉ?」その話か。「あー、別にいいんじゃねぇか。あいつがどこで何してようがアタシにゃ関係ねぇ。アタシがどこで何してようがあいつに関係ねぇのと同じだ。」っち、カードはチェンジしてもろくなもんにならねぇ。ったくよぉ。

「レヴィ、本気で言ってんのか?」「んだよエダ。何が言いてぇんだよ。」「ノリが悪いどころじゃねぇなぁ。アタシがちょっかい出すとテメェいっつも食ってかかってきたじゃねぇか。それがどうよ?なんだぁその冷めた態度。」なんだも何も、関係ねぇからなぁ。どーでもいい。

「知らねぇよ。サッサとチェンジするならしやがれ。」エダは大袈裟にため息をついて「お前って奴はよぉ〜、ま、どうでもいいか。」そう言いながらカードをチェンジするとチップを賭けた。アタシの手は3のワンペア。勝てやしねぇ。

「おりる。」アタシが手札を伏せると「らしくねぇなぁ。ったくよ、調子狂うぜ。」そう言ってカードを投げ捨てた。「つまんねぇなぁ〜。」まったくだ。つまんねぇよ。本当に。「帰る。」アタシはそう言って立ち上がった。「へっ、けぇれけぇれ。」しっしっと手を振るエダに軽く手を振って外に出た。あっちぃ。まったく、ろくなもんじゃねぇ。
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