張×ロック

□始まりから。第1話
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第1話。虫酸が走る誘い。

「すまんなわざわざ。まあ座ってくれ。」

トラブルの最中以外でMr.張から直接俺に電話が入ったのは初めての事だ。一体何の要件なのか。俺は対面のソファに座って言った。

「いえ大丈夫です。でも何の話ですか?俺だけに話したい事って?」

ラグーン商会、またはダッチを通さずに直接俺に連絡をしてきた訳。それなりの理由があるはずだ。

「それなんだがなぁー。」

Mr.張はタバコを灰皿に押し付け、新しいタバコに火を付ける。勿体振るなぁ。

「俺にもよくわからん。」

は?今この人なんて言った?

「よくわからねぇんだが、それを確かめたくてな。それでお前さんを呼んだんだ。」

なにひとつわからない。何も説明になっていないのに、この妙な落ち着きと風格に俺は納得させられそうになる。

いやいや、おかしいだろ。わけがわからないだろ。そんな説明で俺にどうしろと言うんだ。

「何を確かめたいんですか?今の何の説明にもなってませんよ。もっとわかりやすく話して下さい。」そう言うとタバコをふかして「なあロック。お前、実は女だったりしないか?」と言った。

は?はあ?なに言ってんだこの人。俺は呆れてため息をつき「ありません。これでもれっきとした男ですよ…。」と言った。そりゃあ俺はいつもレヴィ達に助けられてばかりで性格も普段は男らしくないかもしれない。だけど見た目でそのくらいの事はわかるだろう。俺のどこが女に見えるって言うんだ

「だよなぁ。そうなるとますますわからん。」

わからないのは俺の方だ。

「張さん、何が言いたいんですか?俺が男か女か、そんな事もわからないと?」

勿体つける様な物言いに段々と苛立ってきた。なんなんだこの人。からかう為に呼んだのか?そんなに暇人じゃないだろう。

「いや、俺自身もちょっと困っていてな。なんと言うか、相談したい。」

似合わない事を言う。張さんが俺に相談?ますます見当がつかない。

「それは、まあ、かまいませんが、なんなんですか?」そう言った俺をサングラスごしに見つめて「お前の顔がチラつくんだよ。」そう言った。

「それは、どういう意味ですか?」

同じ様な問いかけしかしようがない。Mr.張は頭を掻き、お得意のわざとらしい笑顔と仕草をして「どういう意味だか知りたくて呼んだんだ。まったく、どうかしている。ロック、お前さん、ノンケか?」

は?はあぁ??なに言ってんだこの人。

「いや、まあ、はい、そう、ですけど。」「そうだろうな、俺もそうだ。そうなんだがなぁ、近頃、女を抱いてる時にお前さんの顔がチラつくんだ。それがどういう事なのか俺にもわからん。わからんが、こうして話してみてなんとなくわかってきた。」

俺にはまったくわからない。何がわかったってんだ。

うわぁ、嫌な予感しかしないよ。

「なんとなくはわかったんだが確信が持てん。そこで、だ。頼みがあるんだが」

「お断りします。」

俺は話を遮ってそう言った。Mr.張はやれやれと笑って「まあこの話の流れなら俺がお前さんの立場でもそう言うな。」わかっているなら言わなければいい。

「話ってのはそれだけですか?だったら俺はもう帰る。今の話は聞かなかった事にしますよ、張さん。」

そう言ってソファから立ち上がり扉に向かった。それをMr.張はただタバコの煙を燻らせながら眺めていた。扉のノブを掴んで回す。開かない。

「なんの真似ですか。扉に鍵をかけるなんて。もう話は済みました。俺は帰りたいんだ。鍵を開けてくれ。」

苛立って俺はそう言った。

「それはまだ出来ないな。要はロック、お前を抱いてみてぇって話だ。察しはついてるだろうがな。確かめたいんだ。何故お前の顔がいつも思い出されるのか。」

鍵を開けるつもりはないんだな。

「Mr.張、いい加減にしてくれ。そんな事、承諾出来るわけがないだろ?惚れただとかそう言う話ならまだ少しくらいは話を続けてもいい。それがなんだ?あんたの話は身勝手にも程がある。確かめたいから抱かせろ?ふざけないでくれ。そんな事、女に言われたって俺は断る。なんでも思い通りになると思うなよっ!」

苛立ちも怒りも隠せずにそう言った俺を見つめてMr.張は大きな声で笑う。

「そうか。そうだろうなぁ。だが確かめられたよ。ロック、俺はお前に欲情するんだ。お前の今の態度も言葉も、確認するのに十分だった。」

クックッと笑ってそんな事を言った。

「それならあんたはフラれた事になる。俺はあんたが好きじゃない。恋愛対象としてはもちろん、人間的にも、むしろ嫌いなんだ。」

そう言うとMr.張はまた大きな声で笑った。

「そうか、そうだろうなぁ。しかし俺はお前のそんな所が気に入っている、と前にも言ったろう?ま、あの時はそんな意味じゃなかったがな。」

のんびりとタバコを吸って、なにひとつ譲る気などないのがありありとわかる。この野郎。

「確認したいだけで呼び出して、試したいだけで、あんたに抱かれろ?ふざけるのも大概にしてくれ!あんたは本当にクソ野郎だ!扉を開けろ!俺は帰る!あんたの顔を見ているだけでうんざりだ!!」

そう言って扉を強く殴った。

「ロック、落ち着けよ。あまりこういう事は言いたくないんだが、俺をなんだと思ってるんだ?」

嫌な笑みを浮かべて俺に近づいて来る。

「この悪徳の都、ロアナプラを実質的に支配している香港マフィア。そんな事わかりきってるさ。悪党の中のクソ野郎だ。」

俺は近づいて来るMr.張を睨み付けながらそう言った。

「わかっていてその態度か。ロック、お前は俺を甘くみてる。そうでなければただの馬鹿か、それともラグーンのメンバーである自分は安全だ、とでも?」

眼前に立ちはだかりMr.張は言う。ふざけるな。

「舐めてるのはあんたの方だろ。わかってるさ、この街じゃ力が全てだ。あんたがどんな人間なのかもそれなりにわかってるつもりだよ。だけどなぁ!だからって、はいそうですかなんぞと尻を差し出せる程プライドを捨てられやしない!!特に!あんたにはな!!」

怒りで身体が震える。

この男は何もかも自分の思い通りに出来ると、俺の意思なんざ関係なく、好き勝手にヤレると思ってやがる。ちくしょう。実際その通りだ。あんたに俺が敵うわけがない。それに殺されるのもごめんだ。

だけど!だけどなぁ!!あー!!もう!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるなよ!!!ちくしょう!!!!

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