暇つぶし人生ゲーム。

□暇つぶし人生ゲーム。10.
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暇つぶし人生ゲーム。10.

まさか見つけられちまうとは思ってなかったなぁ。てかそこまでして探されると思ってなかった。ビビるぜ、マジで。三合会の幹部会、あれがあそこで執り行なわれる事、それを知った時には逃げようかとも思った。

だが検問の前でUターンをするような真似をしたが最後、絶対に不審に思われ追跡される。そう思ったからこそ私はあの場に残り、舞台に立った。これでやり過ごせりゃここはもう探される事は無いだろうと、賭けたんだ。

実際、あと少しだったと思うんだよ。惜しいとこまで行ったんだ。野郎は最初に私を見てなんの反応も示さなかった。逃げおおせる、見過ごさせてみせる、そう思った。なのになんで気がつくんだよ。あんなとこから眺めただけでなんで私に気がつくんだ。

勘違いしちまいそうになる。あんたが私を探してた理由。それを良いように勘違いしちまいそうになるじゃねぇかよ。ったく、忌々しい。本当に嫌な野郎だ。いつも飄々としたあんたが感情を露わにする。なあ、なんなんだよ。あんた一体どういうつもりなんだ?

えげつねぇペナルティを言い渡して涼しい顔して笑ってやがる。さっきまでの苛立ちと不快感はどこいったんだよ。

わからねぇ。旦那、私には何一つわからねぇよ。例えあんたが私に本気で惚れてると、そう言ったとしても、それが何故なのか、何一つわからねぇんだ。わかんのは、私があんたを好きでたまらねぇってことと、本気で逃げ切るつもりだったのに、それを見つけ出されて、怖くて嬉しくてたまらねぇって事だけだ。

私は笑って、涙が止まるのを待った。だがどうにも止まる気配がねぇ。そこにあんたがいるからだ。そんな目で私を見てるからだ。

「なあ、ちっと風呂入ってきていいか?ヤるんだろ?まあそれとは関係ねぇんだけどよ、落ち着きてぇんだ。」

そう言った私にゆっくり近づくと顎を軽く掴んでキスをした。脳天から全身を突き抜けるような感覚が走る。野郎は固まる私を見て満足そうに微笑む。

「ああ、やっぱりそうだ。君でなければ味わえない。この感覚は。君が好きだ。必死で探したのもこの感情に名前を付けたかったからだと今わかった。ゲームは終了だ。ここからは本気でいかせてもらう。逃げるなよ?二度とそんな真似は許さねぇ。風呂に入ってこい。その厚化粧も見飽きたからな。落ち着けるかはわからんが、スッキリしてくるといい。せめて身体だけでもな。」

そう言って至近距離から顔を離すと窓辺に向かって歩き出す。外の景色を眺めながらゆれる紫煙は優しく私を促しているようだった。
キスで固まった身体をぎこちなく動かし「んじゃ、お言葉に甘えて。」そう言ってバスルームに向かった。バスタブには湯がはられていた。野郎が入ったあとなのか、私が風呂に入りたがるのを見越してなのか、わかりゃしねぇが、まだ暖かい湯に、汗を流し軽く身体を洗ってからゆっくりと浸かった。

疲れた。このまま寝ちまいてぇ。負け戦ってのは精神が磨耗するんだ。それがどんなに嬉しさを孕んでいたとしても。これから野郎に抱かれる。しかもペナルティとしての訊問付きで。無茶苦茶な事を言いやがる。できっかよ、んな事。

あんたにたった一度抱かれて私がどんだけ追い詰められたか、逃げ出したい衝動を抑えきれずにここまで来たってのに、まったく性根のドグサレだ野郎だ。こえぇさ。あん時と同じように。だがもう逃げるわけにはいかねぇ。あんたの腕に狂いながら、洗いざらい全部ぶちまけてやる。舐めてんじゃねえぞ。テメェが呆気にとられるくれぇ、衝動から派生した私の勘と逃げおおせた経緯、そして私がどんだけテメェを愛しているか。聞かせてやるよ。つかまっちまった以上、もうそれ以外の方法が馬鹿な私には思いつかねえ。

「うっおっしゃあっ!!」物凄い気合いを込めた声が聞こえて脱衣所の扉が勢いよく開けられる。

「へい!おまち!さあ!ヤろうぜ!!」デジャヴだ。「ラーメンの出前を頼んだ覚えはないな。」笑いながらそう言うと彼女も笑って、あん時と同じだなぁと言った。

「ワザとか?」「いや、旦那のセリフで思い出した。私は相変わらず馬鹿なだけだ。死ぬほどこえぇんだ。いや、死ぬのなんか別に怖かねぇから、なんだ、最強にこえぇんだよ。見ろよ手、震えてんだろ?手だけじゃねぇか。足もだ。もう、全然やべぇ。実際勘弁してほしい。いやもう正味な話、勘弁してくんねぇか?くんねぇよなー。旦那には慈悲ってもんがねぇからなー。あー。駄目だ。歩けねぇ。こっから一歩も足が動かせねぇ。いや、さっきから旦那の側に行こうとしてんだぜ?マジで。ペナルティは負わなきゃならねぇし、抱かれたくねぇわけじゃねぇし、旦那に会えて嬉しいし、近くに行きてぇ。けどよぉ、どうしよう?動かねぇんだけど、足。ふへへ。やべぇ。怖すぎて笑けてきやがった。ふっ、ふはっ、あはは!」

顔を引きつらせておかしな笑い声をもらす。俺はあの時と同じ様に笑いが込み上げ、気が済むまで笑った。あー、面白い。君は本当に面白れぇ。

「君といると腹筋が鍛えられる。」笑いすぎて涙が出てきた。それを指で拭いながら立ち上がり、震えて固まった彼女にゆっくり歩み寄る。

「そんなに俺に抱かれるのが怖いか?」彼女の顔を覗き込んでそう言うと「めちゃめちゃこえぇ。わけわかんなくなるんだよ。ち、近くに来られただけでもうやべぇ。」そう震える声で答えた。俺はまた笑う。

「そうか、そんなに怖いか。難儀だな、君は。俺はな、物凄く面白い。それからとてつもなく楽しみだ。」そう言ってゆっくりと唇を重ねる。

彼女はザワッとまるで全身の毛が総毛立ち、震えを足の先から頭のてっぺんまで走らせているような、髪がぶあっと膨らむような、そんな錯覚を覚える程の反応を見せる。なんて面白いんだ君は。

それに君とのキスは俺も痺れるような感覚が走る。抱き寄せ何度もキスをしてその反応と感覚を確かめる。深いキスをするまでもなく、彼女は俺にすがりつき、立っているのがままならなくなっていった。

「…駄目だ、わりぃ、旦那。た、立ってられねぇよ。もう、無理だ。べ、ベッドに、連れてってくれ…」「いいのか?ベッドに行ったらもっとやべぇ事になるんだぞ?」耳元で囁くとブルッと身震いして力なく笑う。「よくねぇって言ったら許してくれんのかよ?」俺は笑って彼女を強く抱き締める。「いや、許さんし、やめねぇよ。」「なら聞くな。」

即答する彼女の言葉に俺は笑い声を上げながら彼女を抱き上げた。

「今日はジタバタしないのか?」言いながらベッドに足を進めると「無駄なことはしたくねぇ、あん時わかったからな。こうなったら何を言っても無駄だろ。くそ、本当に嫌な野郎だな。ジタバタして欲しいのかよ。」

赤面して震えながらそれでも俺を真っ直ぐ見つめて彼女は言った。君は変わったよ。以前より、強く、美しくなった。面白さは残したままな。最高の変化だ。

「ジタバタする君も可愛らしかったからな。それもいい。だが学習してそれを抑える君はもっといい。そそるよ。欲情する。」言いながらベッドへ寝かせて髪を撫でた。

タチ悪りぃなぁ。マジで、コイツはマジもんの外道だ。あん時みてぇに押し倒してくれりゃいいのに。なんで優しくベッドに寝かせてその横に腰掛けて頭なんざ撫でるんだよ。

しかもその目。やめろよ。なんだよその目は。暗い楽しみを浮かべた目で見ろよ。まるで愛しいもんを見つめるような、優しい目で見るのはやめろ。おまけにその目に雄の色が色濃く浮かんでいる。

ああ、もう、本当に逃げてぇ。また逃げちまいたくなる。あんたのその目の理由が、怖くてたまらねぇんだ。逃げたしたい衝動と、心地いい優しい目線、頭を撫でられる安心感がごちゃませになり、私は意識が朦朧としていた。

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