暇つぶし人生ゲーム。

□暇つぶし人生ゲーム。E
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暇つぶし人生ゲーム。E

「なあ、性病の検査もしてくれよ」いまだ癒えぬ身体をベッドに横たえて彼女は言った。「散々ヤラれたからな。病気持ちがいてもおかしくねぇ。もし旦那が抱く気になった時に性病持ちじゃあシャレにならねぇだろ?」もう少し言い方と言うものがあるだろうに。まあ彼女のそんなところが気に入っているのだが。

「もちろんその検査も洗浄も予防もした。覚えてないのか?」そう言うと何かを思い出そうとし「最初の病院でか?なんも覚えてねぇなぁ。なんか、この医者淡々としすぎじゃね?と思ったくれぇしか思い出せねぇ。んじゃ、とりあえず白って事か?結果出てんだろ?」「今のところは白だ。だがしばらくしてからの検査でなければはっきりした結果が出ない類のものもあるからな。その検査はこれからだ。あと。」

そこで言葉を切って彼女の顔を覗き込む。彼女の顔には、なんだよ?と書いてあるようだ。

「皮膚移植をする気はないか?」そう言うと彼女はポカンとした。「へ?どこの?」聞いたことのない子供っぽい声で彼女は問う。「左胸の火傷だ。」そう答えると彼女は目線を左胸に向け火傷の位置を眺めると「私は別にどっちでもかまわねぇよ。気になるか?」そう言いながら俺に視線を向ける。俺は頭を掻いた。バツが悪い。

「まあ、な。他人の紋章が焼き付けられているのは気に食わん。」そう答えると彼女はまたポカンとした顔をして、それから大きな声で笑った。

「やめろよ!笑うといてぇんだ!!あっはっはっはっ!いってて!ふっ!はっ!あははっ!いいぜ、旦那が気になるなら皮膚移植だろうがこの上からあんたの紋章を焼き入れなおすでも好きにしてくれ。あー、いてぇ。旦那、あんたに惚れたらあんたの闇に沈むんだと思ってた。こんな明るいところに落とされるたぁ思いもよらなかったぜ。あんた、私にお熱だなぁ?それとも持ち上げて落とす、そういうゲームがお好みか?」

痛みと笑いで涙目になりながら傷だらけの彼女はいたずらっぽく俺を見る。

「さて、どうだろうな。」そう答えてタバコを咥え火を付けた。

その数ヶ月後「今夜はセックスしようと思うんだが。」電話口でそう言うと一瞬固まった気配がした。

「…あー、ああ、そうか、うん、あぁ、うん、わかった。んじゃ、えー、あれだ、まあ、わかった。用意しとく…あ?用意ってなんだ?まあいい、わかった。んじゃ。」ケータイを落とす音がして、それから電話が切れる。俺は肩を震わせて笑った。

なんだそれは。君、それは反則だろう。あれだけファックなんざ屁でもねぇと言動で表していたのに、どうしたそのザマは。おかしくておかしくて腹が痛い。

やべぇ、逃げてぇ。どうすりゃいい?いや、確かに言ったよ、抱いてくれってよ。ああ、セックスしてみてぇと思ったけどよ。なんだこれ、死刑宣告みてぇな事しやがる。傷が癒えるまでまた野郎は時々隣で眠り、ある程度治ってからは抱き枕にしていた。リハビリは必要だがもう痛むところはねぇ。つーかそれを待ってたって事か?

「うおおお…やべぇ、超逃げてぇ…っ!」隣にいると安心した。抱き枕にされると心地良い。だが本気になってからは時々抱き締められると変な声が出そうになる時がある。そうでなくても触られると、なんつーかビリビリする時があんだよ。セックスん時にあれがきたら、つーかぜってぇくんだろ?そういうもんだろ?知らねぇけど。あー、触ってんなー、とか、あー、入ってんなー、とか、そういう感覚だけじゃねぇって事だろ?うっお、やっべ、すっげ、こっえ。全然大丈夫じゃねぇ。ワザと骨でも折って回避してぇ。いや、待ってくれたのは気まぐれだな。つーか、作戦だな。野郎はやると言ったら、やる。

例え足の骨でもブチ折ってみても、仕方ないなくらいでそのままやる。なんかそこだけは確信出来る。やべぇ、どっかでたかをくくってた。どうせ野郎はヤりゃしねぇだろうと、どっかでたかぁくくってたんだ。セックスもファックも相手に困る様な野郎じゃねぇし、私はその位置には置かれやしねぇ、どっかでそんな風に思ってたんだ。だから抱いてくれとか言えたんだなぁ。どうせやんねぇとどっかで思ってたんだ。うおおお、超逃げてぇー。

「どういう用意をしたんだ君は。」

部屋に入ると暴れたような形跡があり彼女はリハビリで汗だくになっていた。

「よぉ、お、遅かったなぁ、もう、なんか、どうすりゃいいのかわかんなくて、取り敢えず、暴れた。わりぃ。なんか色々壊しちまった。あ、風呂はちゃんと入ったんだぜ、まあ、もう意味ねぇけど。あ、ヤるか?ヤるんだよな!そうだよな!じゃあ汗流してこねぇとマズイよな!あ、でも旦那が先に入るか?そうだ、そうしてくれ!旦那がシャワーに入ってる間にまた汗だくになっちまう気がする!私が後がいい!うん!それだ!な!」

面白い。なんだこれは。完全に挙動不審で目が泳いでいる。どこまで動揺したらこうなるんだ。

「わかったわかった。少し落ち着け。なら先にシャワーに入る。治りかけの身体に悪い。これ以上無茶はするな。わかったか?」コートを脱ぎながらそう言うとカクカクと変な動きをして「お、おお、よし!わかった!」とファイティングポーズをとった。何もわかってない。

俺は笑いをこらえてシャワールームに入った。声をこらえて笑う。面白い。思いがけない展開だ。なんだ君は。馬鹿なのか。馬鹿なんだろうな。ああ、大馬鹿は面白い。そんな事を考えつつシャワーを浴びた。

うおおお、来たー。ホントに来たー。いや、そりゃ来るよ。来るっつって来なかった事ねぇよ。やっべ、全然なんの覚悟も出来なかった。すげぇ、どうしよう。土下座して勘弁してもらえねぇかな。駄目かな。駄目だろうな。うおおおおおお!どーしよーーーーっ!!!

うお⁉︎シャワー止まった!!やべぇ!もう出てくる!!落ち着け、落ち着け、まだだ、まだ猶予はある。次は私がシャワーを浴びる。その間になんとか気持ちを落ち着けるんだ。いける、大丈夫だ。たかがセックスじゃねぇか。どんだけやったかわかんねぇくれぇヤりまくった事だ。変わりゃしねぇ。野郎が相手でも、そこまで、そこまで?そこまで変わりゃしねぇだろ⁉︎なぁ⁉︎変わんねぇよな⁉︎わかんねぇーっ!!

「何をしてるんだ、君は。」

頭を抱えて床を転げ回っている。見ればわかんだろ。クソ!野郎の声と気配がもうなんか、ヤバイ!!「…お早いお戻りで。んじゃあ次は私が…っ⁈あだっ!!」慌てて起き上がるとテーブルに頭を打ち付けた。「いってぇ…」野郎は笑いをこらえて私の手を握る。「何をやってるんだ君は。そら、立てるか?」握った手を引いて私を立ち上がらせた。うおおおおお!手が!!手が!!もう痺れてる!!ふざけんな!なんだこれ!

「わ、わりぃ。あ、じゃ、ちょっと汗流してくるわ…」私はすぐに手を離してシャワールームに入った。あー、駄目だ。これはぜってぇやべぇ。多分、未知の領域だ。知りたくない類いの。駄目だー。こえぇー。うわー。シャワーを浴びながら繰り返しそんなことを思う。どうにもならねぇ。もう成り行き任せにするしかねぇ。諦めた。諦めるしかねぇ。シャワーから出て身体を拭いた。

バスローブ、を、着るのか?野郎は着てた。うん、バスローブを着よう。で、下着は?付けんのか?いつもはパンツは履いてっけど、履くのか?いるのか?いらねぇのか?どっちだ?いら、ねぇ、か?うおおおお、こっからかー。こっからわかんねぇのかー。知らん。もう知らん。パンツは履かねぇ。バスローブいっちょうでいい。ドアノブを掴んで部屋に入ろうとしたが手が震えていてうまく開けられねぇ。馬鹿なんだろうな。ホント。私はどこまで馬鹿なんだ。

「オラッ!」気合を入れて震える手でドアノブを掴み部屋に入る。

「へい!おまち!さあ、ヤろうぜ!」なんでベッドにいてくれねぇんだ。そっちの方が楽だったのによ。「ラーメンの出前を頼んだ覚えはないな。」野郎は笑いながらソファでタバコを吸ってやがる。

「取り敢えず落ち着け。こっちにこい。」嫌だー!落ち着けねぇのはもうわかったんだよ!だからもうさっさと!さっさとベッドでどうにもならねぇ状況になりてぇ。無駄な抵抗はしたくねぇんだ。

「いや!それは無理だからいい!早くヤろうぜ!ベッドで!な!」突然野郎がうつむき肩を震わせる。なんだ?どうした?かと思うとぶはっと吹き出し大きな声で笑った。

「頼む、面白すぎて腹が痛いんだ。少しこっちで酒に付き合ってくれ。」笑いながら言う。そんなに、おかしいか?うん、おかしいな。うまく歩けねぇし。カクカク歩いて野郎が座っているソファに近づき、野郎のすぐ隣に座った。よーし!これは正しい!上手く出来た!!隣の気配でビリビリすっけど!もうこれに早く慣れろ!!野郎はまだ笑っている。サングラスを上げ目頭をおさえ肩を震わせて笑っている。楽しそうだ。なんとなくホッとした。

二面のステージがまさかこんなだとは思わなかった。面白すぎる。どうすればいいかわからんくらい面白い。

隣で彼女は挙動不審に酒を飲もうとしてグラスに氷を入れた。が、グラスが倒れた。わたわたしながらグラスを掴もうとして取り落としゴンという音がして彼女は足をおさえる。グラスが足の甲に落ちたらしい。面白い。面白すぎてたまらん。

「入れてやる、大人しく座ってろ。」グラスを拾い上げ軽く拭いて氷と酒をそそぐ。「はっ、す、すんません!」シャキッと背筋を伸ばし両手を膝にのせて彼女は言った。武士か。俺はまた笑いが込み上げ気が済むまで笑った。はー、苦しい。こんなに腹が痛くなるまで思い切り笑ったのはいつ以来だろうな。

「すまん、待たせたな。」グラスを向けると彼女はシュバっとグラスを掴み「おつかれっす!」とグラスを合わせた。「すまん、すまんが、それはなんとかならないのか?」「なんとかなるならとっくになんとかしてりゅ!」

…かんだ。りゅって。駄目だ、面白すぎて笑いが止まらん。俺は涙を流してひーひー笑った。彼女は挙動不審のまま、取り敢えず、酒を飲む事にしたようでグビグビ飲み干しておかわりをそそごうとする。その手を掴むとビクッとはねた。

「飲み過ぎないでくれよ?初めて抱くのに泥酔されてちゃつまらんからな。」

そう言って彼女を見るとゆでダコの様に真っ赤な、しかも変な顔をして固まっている。俺はまた笑って「笑わせてヤる気を削ぐ気なのか?」と言うと「そんな方法思い付きもしなかった!それいけるか?回避ルートか?」そう目を輝かせた。「回避ルートかもしれんな。」そう言うと、彼女は深く息を吸い大きく吐き出した。

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