暇つぶし人生ゲーム。

□暇つぶし人生ゲーム。C
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暇つぶし人生ゲーム。C

「なあ、ファックしようぜ?」
酔った彼女はそう言った。

「いや、ファックはまだする気にならないな。」
「なんでだよ?私が惚れたら喜んで抱くって言ってたじゃねぇか。」
「君はさっき、多分と言った。それが完全に取れるまでファックする気にはならんよ。」
「っは!ははっ!あー、そうかよ。ったく、ワガママな野郎だ。ホントはインポなんじゃねぇのか?」
「違う事は知ってるだろう?」 「っぷ、あははっ!ああ!時々あたる!それに、あははっ!朝立ちもしてたしな!あっはっはっはっは!」
「勃たないわけでも君に性的な魅力を感じないわけでもない。ただこんなに面白い事をつまらんものにしたくないだけだ。」
「相当飢えてやがるなぁ。私なんかがそんなに面白ぇなんてよ。旦那もなかなか大変だな。ははっ!」

そんな話をしながら酒を飲み、さすがにそろそろ寝るかと俺が言った時、あっけらかんとしていた彼女からフワリとした警戒心が香った。

ああ、面白い。君は自分で思っているよりも面白い女だよ。俺はそう思いながら少しだけ笑ってベッドにゴロリと横になった。

「オイ、酒くせぇのは嫌いなんだ。歯ぁ磨けよ。」

彼女は歯ブラシを咥えてそう言った。

「はいはい、わかったよ。まったく、キスもしねぇのにやれやれだ。」

そう言って起き上がり洗面所に向かう瞬間、彼女からほんの少し寂しさがもれてきた。

これは俺の方が我慢出来なくなるかもしれんな。ファックか。彼女とするならファックよりセックスがいい。

犯すのではなく求められ抱きたい。
さあ、もっと俺を欲しがれ。

歯ブラシを咥えた彼女が隣にやってきて口をゆすぎベッドへ入っていく音がした。歯を磨き終え、ベッドへ行くと彼女は無言でベッドを半分あけた。

いつもより壁側に寄っていることに気が付いているのだろうか。

俺はベッドへ入り背中を向けている彼女を後ろから抱き締める。彼女は少し身じろぎし、収まりの良い場所を見つけるとそこに身体をあずけた。

警戒しないように、無防備でいるように、そう心がけているのがありありとわかる。

俺は笑って強く彼女を抱き締めると「いや、まいったよ。君は可愛いな。」そう言った。彼女は「そりゃ良かった。」とつとめて無感情に言う。ああ、本当に俺の我慢が効かなくなりそうだ。

「俺も多分、君が好きだ。」

そう言った時、彼女の身体はほんの少しピクリとして「多分、か。」そう言って笑った。

マフラー野郎とそれなりに楽しい暇つぶしの日々を過ごし、時折焦り、どうでもいいと思い、苛立ち、そしてまた焦りを感じた。

マフラー野郎はいまだファックどころか抱き枕にする以外、一切私に触ってこねぇ。本気になるのが怖い。それを自覚してから馬鹿みてぇに笑った。

それをマフラー野郎は楽しげに眺める。ああ、いいさ。テメェが飽きるまで、このゲームに付き合ってやる。

私を本気にさせて泥沼に沈めろ。テメェの闇に飲み込まれるのはどんな気分だろうな。

最高の暇つぶしだ。

そんな時、私はドジを踏んで、街のクソに取り押さえられた。何かの薬を打たれ、意識を失う。まったく、油断しきっていた。自業自得だ。

目を覚ますと見覚えのある部屋で椅子に縛り付けられていた。薬の影響で霞む視界に、ひとりの男が立っている。だんだんとその姿がはっきり見えてきて私は笑った。

「よお、久しぶりだなぁ。なんか用か?」

私がそう言うと奴は苦々しい顔をして私の頬を張った。

私はなおも笑いながら「なあ、あの野郎になんか言われたんじゃねぇか?いいのかよ?私は今、あの野郎のお気に入りなんだ。こんな事してどうされるかわかったもんじゃねぇよ?」わざとマフラー野郎とそういう関係だと言う言い方をして奴を見た。

奴は細心の注意を払った、絶対に自分が連れて来た事は露呈しない、助けは来ない、お前は俺が一生飼い殺しにする。そう言った。

かつて私が騙したド阿呆はもうそこにはいなかった。そこにはただ行き場の無い怒りと悲しみと喪失感と憎悪の塊が渦巻いている。

私がこいつを壊しちまったんだなぁ。

悪かったとは思う。だが理想の女を演じ続けるのは暇つぶしとしても最悪だったんだ。すまねぇな。そんな事をぼんやり思った。

ド阿呆にとっ捕まってから、まずは散々奴にレイプされた。罵りながら、殴りながら、泣きながら、何度も何度もレイプしやがる。

最低の暇つぶしだ。

だがまぁそれもどうでもいい。
好きにしたらいい。

お前の気持ちはこんな事じゃ癒されない。騙される前の、無邪気で無害で幸せな人間にはもう戻れない。

ざまあみろ。お前も私と同じものに堕ちたんだ。それに比べれば私への仕打ちなど菓子のオマケのようなもんだ。

ざまあみろ。お前は帰れない。
もう、あの光の差す方向へ。

最低だが暇つぶしにはなる。ヤられている間は何も感じず何も考えずにいられるからな。問題は終わった後だ。いてぇしきたねぇしくせぇし最悪だ。

最低はともかく最悪は暇つぶしとしても楽しめやしねぇ。散々ヤりつくしたド阿呆はいつも逃げるようにその場を立ち去っていった。そんな事がもう10日ほど続いているだろうか。

暗い地下牢の様な所に鎖で繋がれている私には正しい日にち感覚などもはや無い。おそらく10回ほど寝た。だから10日くらい経ったんじゃねぇかなと思うだけだ。

ド阿呆の部下がやって来て後ろ手に手錠をはめると部屋に繋がれていた足枷を外した。

立ち上がれと言い、乱暴に私をバスルームに連れて行く。私は身体の隅々を洗われ、そして、かつてド阿呆の前で演じていた女の格好をさせられた。

そのままド阿呆の部屋まで連れて行かれ奴は私を見て泣きながら抱き締めてきた。哀れな奴だ。同情するぜ。

そして奴は言った。かつての姿に戻ればもう酷い事はしない。自分が愛した女に会わせてくれ、そして側にいてくれと、泣いた。

私は笑い出しそうになるのをこらえてその女の声と言葉使いで奴に言った。

「ごめんなさい。貴方をこんなに傷付けてしまって。でも私はもう戻れない。1度も貴方を愛したことはないわ。1度も貴方に抱かれて喜びを感じた事もないの。本当に、ごめんなさい。」

そう言った私をド阿呆は化け物を見るような目で見つめた。私は我慢が出来なくなり笑い出す。

怒りに震えド阿呆は私を殴り倒しサンドバッグにしながら、雌豚だの、肉便器だの、性奴隷にしてやるだの、どこかで聞いた事のあるつまらない罵倒を繰り返した。

お前、裏モノビデオの見過ぎなんじゃねぇか?私はサンドバッグにされながらなおも笑い続けた。

それから奴は自ら私を犯すのではなく、男を用意して輪姦させるようになった。はじめは2人、それから5人、それ以降は数える気にならなかった。

奴は輪姦される私をいつも部屋の隅に座って睨めつけている。私は時折奴に視線を向け、かつて演じた女の顔で微笑んでみせた。奴は立ち上がり私を蹴り付け顔を踏みにじる。

それにも飽きた頃、まあ、有り体に言えば拷問が始まった。犯されながら爪をはがれたり、指を折られたり、吊るされてムチで打たれたり、ははっ!馬鹿馬鹿しい。だからよぉ、お前のやる事にはオリジナリティーがねぇんだよ。つまらねぇなぁ。

さてとっ捕まってからどのくらいの月日が経ったのだろうか?どうでもいいことだが。

そう言えば昨日は焼印を入れられたなぁ。ド阿呆の紋章を左胸あたりに。オシャレじゃね?

私はまた笑いがこみ上げてきた。

ふと、あの人を思い出す。
あー、ごめんな、せっかく育ててくれたのに、あんなにまでして育ててくれたのに、私はこんなクソみてぇな生き方しか出来ねぇみてぇだよ。

生きてればいいことがある、そう言ったよな?私にとって生きていて良かったと思えたのはあんたと出逢えた事だけだ。この先、あんたのいないこの世界でいいことなんかあるかなぁ。

あんたは嘘つきだ。
でもいつも嘘を本当にしてくれた。言った時は嘘でも後から本当にしてくれた。その為に死ぬ程働いてくれた。

あんたを本物の嘘つきにしたくねぇなぁ。生きてりゃいいことあるといいなぁ。

そんな事を考えていると足音が聞こえてきた。ああ、また最低な暇つぶしの時間か。足音が近づいてくるとだんだんとあの人の香りがしてきた。その香りの主は、あの人であるはずもない。

檻の前でタバコの煙をくゆらす男。吊るされた私をサングラス越しに見つめている。

男は檻の鍵を開け、中に入ると私を吊るしていた鎖をゆるめ下に下ろした。そして私の前に片膝をつき、鎖が繋がれた手枷の鍵を開ける。

あの人の香り。

「さあ、帰るぞ。」
そう言って男は私を抱きかかえると檻の入り口をくぐって外へを歩き出す。久々に出た屋外は、晴れ渡った青空と暑い日差しにあふれていた。

男は私を車に乗せる。
隣に座ってタバコを深く吸い「探したよ。君がいなくて退屈だった。俺のゲームを横取りした野郎を放っておくのも示しがつかんしな。」そう言った。

私はただ黙って男の姿を眺める。あの人の香りに包まれながら、眩しい外の世界へ連れ出してくれたこの男を、ただ黙って眺めていた。

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