暇つぶし人生ゲーム。

□暇つぶし人生ゲーム。@
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暇つぶし人生ゲーム。@

ラグーン商会の事務所でこんな会話が始まった。

「なあ、聞いたかダッチ。おかしな格好の女がこの街を逃げ回ってるって話。」
「ああ、メイドじゃなくてホッとしたぜ。まったく。」
「なに?何の話だ?」
「ロックお前何にもしらねぇのか?」
「うん…。」
「花嫁だよロック。」
「花嫁?」
「そう、ウェディングドレスを着た女が、街中逃げ回って大立ち回りを演じてるって話さ。」
「なんだいそれ?」
「わかんねぇ。ただな、賞金が出たんだよ。」
「それは知らなかったな。いくらだ?」
「8万ドルだぜダッチ。」
ダッチは口笛を吹く。
「ただし無傷、または最小限の傷でないと駄目ってな話だ。面倒くせぇ。足でも撃って良けりゃ簡単なのによ。」
「でも行くんだろ?」
「まあな、8万ドルは惜しいぜ。」

そう言ってレヴィは事務所を出て行った。ダッチはため息をつき「ま、メイドより面倒な事にはならねぇと思うが街中巻き込む厄介事じゃなけりゃいいさ。」
「同感だ。」ベニーがそう言った。

花嫁…そんな不似合いなものがこの街で大立ち回りを演じている。8万ドルの賞金をかけられながらいまだ掴まらない。一体どんな女なのだろう、とロックは思った。

「いたぞ!あそこだ!!」

くっそ!また着替える前に見付かった!!なんだこの街!あっという間に賞金狙いの馬鹿どもの群が出来上がりやがった。逃げ込むにはいいと判断したがとんだミスだ。ちきしょう。

「あー!!めんどくせぇーーーっ!!」投網のような道具をかわし、逃げるのではなく賞金狙いの馬鹿どもに向かって突っ込んでいく。

「どりゃあああっ!!」顔面に飛び蹴りをかましそのまま回し蹴りで周りの賞金稼ぎ共を蹴り飛ばす。後ろから羽交い締めにしてきた男の腕に勢いをつけ全体重をかけ下に引き落とす。男の悲鳴とゴキっという鈍い音が響く。

バーカ。護身術の基本のきだぜ。両腕脱臼、ご愁傷様。とはいえこのままじゃ時間の問題だ。人数が多すぎる。流石に息が切れてきた。

それにあいつが足のひとつも撃ち抜いていいと条件を変えたらそれはもうアウトだ。まあアウトならそれでもいいけどよ。殺してくれんなら望むところだ。私は死ねない、自分では。だから殺してくれんならありがてぇ。捕まって理想の女を演じ続けさせられるのはごめんだがな。あー、だりぃ。めんどくせぇ。

「見つけたぜぇ!8万ドルはアタシが頂きだ!」わお!好みの女。とか言ってる場合じゃねぇ。腕が立ちそうだが銃を向けて動くなとはナンセンスだぜベイビー。あんたは撃てねぇ。私に傷付けたら8万ドルはパアだからな。警告を無視して私は走り路地を抜け賞金稼ぎ共をぶっ飛ばす。

仕方がない、こいつらから銃奪っとくか。重いから逃げ回るには邪魔なんだけどな。この調子じゃ必要になるだろう。あー、めんどくせぇ。今の内に一気に勝負かけるか。疲れた。ちっと休憩して、あー、その前に着替えてぇ。けどなぁ、呼び寄せるのには目印がいる。仕方ねぇ。このまま、さっきのいい女がいた辺り、あの近くの広場にしよう。

あー、疲れた。だりぃ。めんどくせぇ。死にてぇ。ったく、生きるってのは面倒なことばっかりだ。厄介な約束しちまったぜ。早くあんたに会いたい。

ま、私は地獄、あんたは天国。死んだとしても会えやしねぇな。ククッ、面白くねぇ。なんにも面白いことなんざねぇ。さぁて、最後のショータイムだ。私は自分で定めたリングに向かった。

あっという間に賞金狙いの馬鹿どもに取り囲まれる。私は自分のこめかみに銃を向けて叫んだ。

「近付くな!それ以上一歩でも近付くと8万ドルは単なる肉の塊になるぜ!!お前らの雇い主を呼べ!賞金かけてるド阿呆をな!!」

ざわめきの中、あいつがやって来た。

「何故逃げたりしたんだ。君はそんな人じゃ…」「黙りなクソ野郎。テメェは騙されてたんだ。そしてもう用済みなのさ。だからテメェの愛した女はもう二度と現れない。演じる必要がねぇからだ。あれは幻。本当の私はこんなもんさ。まあ、目的の為ならなんだってする。テメェ相手に身体売ったみてぇにな。単なる売女さ。あんたが執着する程のもんじゃねぇよ。なあ、もう諦めて帰ってくれねぇか。でなけりゃ私はここで頭を吹っ飛ばす。」

奴は言葉をなくし、うつむいてそして言った。

「…殺せ。あの腐れアマを殺せ!殺した奴には賞金をくれてやる!!」

はいはい、きたきた、これだよ。私が待ってたのは。これも自殺に入るのかねぇ?

一応頑張って逃げて戦えばオマケしてくんねぇか?あーあー、めんどくせぇ。生きるってめんどくせぇな。

一斉に銃声が響く、必死で弾を避け、肩口、右腕、右太ももを弾がかすめていく。いつまで踊れるかなぁ。最後の舞台。派手にいこうか。

私は弾を避けながらド阿呆に銃口を向ける。死ね。羨ましい。死ねて羨ましいよ。額に狙いを定め引き金を引こうとした時、変な野郎が邪魔しやがった。

「このくらいにしとけ。この街でこれ以上の勝手は許さない。」なんだ?このマフラー野郎。この暑いのに馬鹿じゃねぇのか?

しかしこいつの言葉、いや、姿で銃声がやんだ。何者だ?どーでもいいけど。

マフラー野郎は私に近付く。そして倒れた私を見下ろして笑った。あぶねぇ野郎だ。オーラがやべぇ。あーあー、また面倒な事になんのか。やってられねぇな。

マフラー野郎の部下がド阿呆と何やら話をしてド阿呆は真っ青な顔をし、後ずさり逃げ帰って行った。

「さあ、この馬鹿騒ぎはお開きだ。賞金は取り消された。お前らの狙いはもうどこにもない。」

賞金狙いの馬鹿どもはボヤきながら解散していく。何が狙いだ?私はマフラー野郎を見上げながらなんとか立ち上がった。

「礼は言わねぇ。余計な事しやがって。なんか用でもあんのか?」そう言うとマフラー野郎はいっそう笑みを深めた。嫌な野郎だ。

「君の大立ち回りをみてね、大層楽しめた単なるファンさ。ここで死なせるのは惜しい。もう少し生きてみちゃどうだ?まあ無理にとは言わんが。あっちに病院がある。送ろうか?」

なんだ、ただの暇つぶしか。こいつも生きるのに飽きてやがる。その中で楽しませてくれるもんを探してやがるんだ。なるほどな。ご同類か。

「いや、ひとりで行ける。私のショーがあんたの暇つぶしになったみてぇで良かったぜ。たまにゃ面白い事も欲しくなるもんだからな。そんじゃ、傷が痛むんでそろそろ行かせてもらう。ああ、やっぱり礼を言う。ありがとう。おかげで約束を破らずにすんだ。んじゃお元気で。」

私は身体を引きずって病院へと歩き出した。マフラー野郎は黙ってそれを見ている。あー、めんどくせぇな。本当に生きるってのは面倒なことばっかりだ。

身体中包帯だらけの姿でチンケなカフェでボーッと街を眺めてた。私の今の日課はこれだけだ。あとは汚ぇモーテルで寝て過ごす。身体を鍛えてねぇから随分筋力も落ちたろうな。

つーか、食うのがめんどくせぇからどんどん痩せてく。まあいい。死なねぇ程度にやってくさ。どーでもいいんだ。なにもかも。めんどくせぇ。ああ。

「息をするのも面倒だ、そんな顔だな。」

マフラー野郎が私の考えの続きを言って勝手に同じテーブルに座った。「なんか用っすか?」一応この街のお偉いさんみてぇだからちっとばかし丁寧に喋ってやる。どうせ暇つぶしだろう。

「いや、どうしているかと思ってね。随分と痩せたな。」

やっぱり暇つぶしだ。まあいいけどよ。人生なんざ死ぬまでの暇つぶしだ。

「あんま食ってねぇもんで。飯食うのもめんどくせぇんですよ。つーか生きてんのがめんどくせぇんです。あんたはどうして私みたいなもんに関わるんすか?暇つぶしなら別にかまやしねぇけどもうあんなショーはやらねぇっすよ。あれは最後のショーだったんで。あとはただ惰性で死ぬまでダラダラ生きるだけのクソつまらねぇ生きもんですよ、私は。あんたの暇つぶしにはもうならねぇ。つまんねぇゴミだ。」

私がアイスコーヒーを飲みながらそう言うとマフラー野郎はタバコに火をつけた。ジタンか。あの人と同じ匂いがする。嫌な野郎だ。

「そうか、残念だな。だが君は俺の興味を引いた。君の言う通り人生はつまらん。暇つぶしだ。その中でどれだけ楽しめるか、だ。久々に見つけた楽しみなんだ。どうだ?俺と付き合ってみないか?」

ジタンの香りであの人を思い出しているとマフラー野郎は口説きに入りやがった。私は呆れてため息をつき言った。

「男はしばらく、いや、もう一生分やり尽くした気分なんすよ。チンコをしゃぶんのも入れんのもめんどくせぇしこりごりでね。せっかくのお誘い大変勿体ねぇなとも思うんだが、あんた程のいい男でも、結局やるこた同じだからな。めんどくせぇんです。勘弁してください。」

マフラー野郎は笑って「あっさり振られちまったなぁ。まあいい。また会いに来ていいか?」そう言って私を見る。

「はあ、別にいいっすよ。暇なんで。いつでもどうぞ。」「そうか、ではまた。」マフラー野郎は席を立ち車へ乗り込んで去っていった。残されたジタンの香り。

ああ、あの人の匂い。会いたい。会いたい。あの人に会いたい。会えない。

だからもうなにもかもどうでもいいんだ。会いたい人に会えないのなら人生にはなんの価値もない。私はモーテルに戻り睡眠薬を飲んでぶっ倒れるように眠りについた。

マフラー野郎は度々カフェに現れどうでもいい話をして、必ず一度口説き、そして帰っていった。

よっぽど暇なんだな。
仕事が、じゃねぇ、人生が、だ。

ジタンの香りも手伝って私はマフラー野郎が来ることをめんどくせぇともなんとも思わなくなっていた。どうでもいいんだ。どうせなにもかも暇つぶし。お互いつまらねぇ人生の暇つぶしに使いあえばいいだけだ。

たまにゃ飲みにでも行くか。今夜は酒が久しぶりに飲みてぇ。そんな事を考えているとジタンの香りがした。

「よお、元気っすか?旦那。」
「よくわかったな。」後ろからやってきたマフラー野郎に振り返って声をかけると奴はそう言った。

「タバコの匂いっすよ。それちっとばかしめずらしいタバコだからな。」「なるほど、俺の匂いを覚えてくれたというわけか。いや、俺の匂い、というわけじゃなさそうだが。」

勘のいい奴は嫌いだ。
まったくめんどくせぇ野郎だ。

「今夜は暇か?」

いきなり口説きに入るのはめずらしいな。

「今夜も明日も明後日もこの先ずーっと暇っすよ。けどあんたとファックする暇はねぇです。」

アイスコーヒーをすすって言うとマフラー野郎は笑って「いきなりファックに誘ったわけじゃない。飲みにでも行かないか?そう誘いたかったんだ。」タイミングのいいこった。

「丁度酒が飲みてぇと思ってたとこなんで、いいっすよ。あんたの部屋とかホテルとか、そういう場所でなけりゃーね。」

私が言うとマフラー野郎は笑って面白い連中がいるBARがある、今夜そこへ行こうと22時にモーテルに迎えを寄越すと言って立ち去っていく。

仕事、忙しいんじゃねぇか?まったく、人生は暇、仕事は忙しい、やってらんねぇだろそんなん。まあどっちも暇よりマシかもな。私はモーテルに戻り迎えが来るまで寝ていた。

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