マフィアの女。

□マフィアの女。その五。
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D「どうしよう。色情魔になったら…」「はあ?何言ってんだお前?」イエローフラッグでポツリと呟いた時に後ろからレヴィの声がした。

「あ、レヴィ…久しぶりぃ。」挨拶をした私にレヴィは顔をしかめ「オイオイ、大丈夫かぁ?あん?なんだこれ?」私の前に転がっているウイスキーの空き瓶をみて言った。

「このアマっ子、ひとりでボトル3本あけてるぜ。」カウンターの中からバオが言う。

「あちゃ〜、完全に出来上がってんなこりゃ。オイ、バオ、こっちにもいつものくれ。」「あいよ。にいちゃんもいつものでいいのか?」レヴィの隣に座ったロックにバオが言う。「ああ、頼むよ。」ロックの声はいつも優しい。落ち着くいい声だ。

「ヘイヘイヘイ〜、なぁによぉ、おそろいじゃないのさぁ。」金髪の美女がレヴィ達に声をかける。「んっだよ、エダ。いちいち絡んでくんじゃねぇ!この色情魔!」「なぁにイキってんだよ、2丁拳銃。あれ?この女は?あ!あれか!チャンの女ってこいつかぁ?!へぇ〜、なんだかさえねぇ女じゃないのさ。これならアタシが迫ってもあの男、落とせるかしらねぇ?」「馬鹿いってんじゃねぇよ、エダ。お前みたいな色情魔、誰も相手にしやしねぇよ。けっ!」レヴィとエダの掛け合いを聞きながらまた言葉がこぼれた。

「色情魔…そうだ、どうしよう…このままだと私も色情魔になっちゃうかも。」「私もってなどういう意味だこのクソアマ。」エダの言葉にレヴィがククッと笑う。私は言葉を続けた。

「夜な夜な男を漁るの…でもそんなんじゃ満足出来なくて変態プレイとかに走り出したりして…ねぇ!レヴィ!私が色情魔になったら撃ってね!!」レヴィの肩を掴んで頼むと「あに言ってんだお前!酔ってんな⁉︎」「レヴィこれだけ飲んでちゃ仕方ないよ。大丈夫かい?」ロックは優しい。レヴィも優しい。ああ、もう私もラグーン商会に入りたい。

そんな事を考えているとエダが私の肩に腕を回し「なぁなぁなぁ!チャンの旦那ってのはあっちの方はどうなのよぉ?」と言った。それをレヴィが諌めるがエダはやめるつもりはないようだ。

「いいじゃないのさぁ〜、これだけ酔っ払ってんだぜ?酒の上での話を許さねぇ程、ケツの穴の小さな男じゃないさぁ。なぁなぁ〜どうなのよぉ〜?やっぱすごいのぉ?」

それは…とふとあの時の事が頭に浮かんだ。かぁと顔が熱くなる。それを見てレヴィ、ロック、エダが口々に「あ、すげぇんだ。」「…ああ。」「ちっ!面白くねぇなぁ。」と言った。

「お前が聞いたんだろエダ!」「るっせぇなー、これじゃただのノロケじゃねぇかぁ、あーつまんねぇ。」またレヴィとエダの掛け合いが始まる。

私はまたガバッとレヴィに向き直り肩を掴んで「ねぇレヴィ!!依頼料払うからぁ!前払い!もし私が色情魔になったら撃ってね!」としつこく頼んだ。

「あーもう!わーったよ!お前が色情魔んなって男漁り出したらアタシがぶっ殺してやらぁ。それでいいんだろ。」レヴィは呆れてそう言うとバカルディをあおった。

「ありがとうレヴィ!!絶対ね!!絶対撃ち殺してね!!!」「わかったわかった、そんときゃアタシのカトラスでお前を穴だらけにしてやるよ。」ああ、レヴィは本当に優しい。

「レヴィ大好き!!」「ぶっ!バッカやめろ!!酒がこぼれるっ!!」レヴィに抱きつき感謝しているといつもの調子であの声がした。

「随分物騒な話をしてるな。」

ふふん、これは飲み過ぎのせいで幻聴がしてるんだ。私は騙されない。驚いた様子でロックが「み、Mr.チャン⁉︎いつの間に⁉︎」と言った。

ロックまでそんなお芝居しなくてもいいのに。私はふふんと笑って「Mr.チャン?うっそだぁ〜、今忙しいからこんなところに来るはずないもーん。」とウイスキーを飲みながら言った。

背後に気配がして耳元で再びあの声がする。「仕事がごたついてな、待ちの時間が出来ちまったんだ。そこで、自分の女に会いにきた、というわけだ。何も不思議はあるまい?」

ほん、もの…?さあっと酔いが覚める。と同時に血の気が下がる。ヤバイ、目眩がする。貧血かもしれない。

「おっと、大丈夫か?またどうせろくに食べもしないで酒ばかり飲んでいたんだろう。身体を壊すぞ?さあ、行こうか。色々と話したい事もあるしな。」ふらりと後ろに倒れかかった私を支えてMr.チャンはそう言った。

思わずみんなに助けを求めて視線を送ったが、ロックは無理無理と首を振り、レヴィはやれやれと酒を飲み、エダはいってらっしゃーいの後ゴートゥーヘルのハンドサインをした。友情なんて幻だ。

私はMr.チャンに支えられながら車まで歩いた。「酒癖が悪いな。」車に乗り込むとMr.チャンはそう言った。私は返す言葉もなくただうつむいて謝る。

「はい…申し訳ありません…。」「かまわんさ。事実を言っただけだ。謝る事はない。」Mr.チャンは後ろから私の頭に手を回し自分の方へ引き寄せる。

「ただ少し心配しているんだ。食事はきちんと取れ。いいな。」Mr.チャンに身体をあずけその言葉を聞く。小さく返事をすると彼は私の頭を撫で、いつものように「いい子だ。」と言った。

「とはいえ気になる事もある。さっきの話、あれはなんだ?」ギクリと硬直して嫌な汗が出る。どこから聞かれていたんだろう。

「君は死にたいのか?」Mr.チャンは言葉を続ける。「死んでまで俺から逃げたいのか?」一瞬、Mr.チャンから青い火花が見えたような気がした。何を言っているんだろう。そんな話はしていない。

「違います。もし、私が色情魔になったら殺して欲しいと依頼していました。」Mr.チャンの周りの空気がふっとゆるむ。

「なんだ?そりゃ?」気の抜けた声で彼は私を見ながら言った。私はなんと言っていいのかわからず、やはり素直に理由を述べることにした。この男に嘘を突き通せる自信などない。

「貴方が、私に教えました。私の身体の事を。それで、もし、貴方が私に飽きて、捨てられたら、身体を持て余して色情魔になるんじゃないかと思ったんです。そんなのは絶対に嫌だったのでレヴィに殺してくれるよう依頼しました。」

少しの間があいて、Mr.チャンは吹き出した。大きな声で笑ってサングラスを外す。

「なるほど!なるほどなぁ!随分と先の心配をさせたわけだ。だが、その心配は要らないさ。俺は君を手放すつもりは毛頭ない。それに君の身体が反応するのは、俺に対してだけだ。そうだろう?」

素顔のMr.チャンは困った子だな、と言うような目をして私を見た。やはりMr.チャンとロックは似ている。そんな関係のない事が頭をよぎりながら、私は彼にみとれていた。

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