マフィアの女。

□マフィアの女。その三。
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Bイエローフラッグに行くとロックがひとりカウンターで飲んでいた。珍しくレヴィがいない。

「ロック!こんばんは。今日はひとり?」声をかけるとロックは私をみて優しく言った。

「やあ、こんばんは。レヴィは野暮用だってさ。終わったら来るって言ってたけど。いつになるやら。」そう言ってグラスを傾けた。私はいつものウイスキーを注文し、ロックとの他愛無い会話を楽しんでいた。

「やっぱりここだったか。」Mr.チャンの声がして、ビクリと身体が震えた。

「近くを通るもんでな、顔を見に寄ったんだ。やあ、ロック。景気はどうだい?」「おかげさまで、なかなかですよ、Mr.チャン」「そいつは結構なことだ。」

ふたりの会話を聞きながら頭がグルグルしていた。不意打ちはやめて欲しい。顔が熱くなっている。酒のせいだと、思いたい。

「こんばんは、Mr.チャン。すみません、お呼びでしたか?」やっとの思いで言葉を発するとMr.チャンはカウンターに肘をかけ私の顔を覗き込む。

「いや、顔を見に寄っただけさ。これからまた会合だ。やれやれ。なかなか君とゆっくり飲む機会もないよ。また連絡する。邪魔したな、ではまた。」私の肩をポンと叩いてからロックに手を挙げて挨拶しながらMr.チャンは立ち去って行った。

「へぇ、Mr.チャンの事、好きなんだね。なんだか、ほっとしたよ。」ロックがそう言ったので、私は飲みかけていたウイスキーを吹き出しそうになった。

「な、何を突然…そんな事、言ってないでしょ?」動揺を隠せず言うとロックは笑って「さっきの態度をみれば誰でもわかるよ。好きな人の前で緊張する女の子そのものだった。」と明るく言った。

ぶっとばしてやりたい。何が良かっただ。何にも良くない。Mr.チャンとの関係は、取り引き、契約なんだ。好きだの、嫌いだのそんな感情はいらなかったはずなんだ。何も知らないくせに自分の価値観だけで物事を良いだの悪いだの言う。ロックには少しそういう無神経なところがある。ああ、ぶっとばしてやりたい。

「そんなんじゃないわ。あとそんなんだったとしてなんでロックがほっとするの?」不機嫌にそう言うとロックは困った様子で頭を掻き「いや、取り引きで、嫌々、とか、そういうわけじゃないんだったら、その、まぁ、良かったのかな、なんて」

ああ、神様。この男に特大の隕石を落として下さい。

「良くない。良くないわ!ぜんっぜん!良くない!!!ロックの馬鹿!!トーヘンボク!!!人の心配してないで自分の気持ちでも考えたら?!馬鹿馬鹿バーカ!!人の気も知らないで!!」

八つ当たりだ。わかってる。でも止められなかった。ウイスキーを飲み干し、おかわりを注ぐ。それをまた一気に飲み干してロックに向き直った。

「あのさぁ、ロックはさぁ、誰が好きなの?」「うえ?い、一体なんの話だ?」「人の感情にズカズカ入り込んできて、自分はなんにも言わないつもり?こーゆー話はね、交換条件って相場は決まってんのよ。こっちに聞いたらそっちも言う。当たり前のルールよ。聞かれたくないなら聞くな馬鹿!!」そしてまたウイスキーを煽る。

「ちょ、飲み過ぎだよ!ペースが早すぎる!」「だから!人の心配してないで自分の気持ちでも考えてろって言ってんだろーが!!酒くらい好きに飲ませろ!!どーせベロベロになったって護衛さん達が車で送ってくれるんだから何の心配もないの!そういう生活送ってんの!!四六時中見張られて知らない人にまでジロジロ見られて、契約が、惚れたはれたの色事になって、私は!!大混乱してるんだ!!!!それをテメェの価値観だけで良かっただとか!!!ぬかすな!!!!このトンチキ!!!」私は思う様ロックに八つ当たりをし、予告通りベロベロに酔っ払って護衛さん達に迷惑をかけた。

翌日は最悪だった。二日酔いと自己嫌悪で頭がガンガンする。水を飲みシャワー浴びたが少しスッキリしたのは二日酔いの方だけで自己嫌悪は止まらなかった。この状況では酒に逃げる事も出来ない。私は再びベッドに潜り込み、なるべくなにも考えないように目を閉じた。

「まだ寝てるのか?昨日は随分飲んだようだな。」ぼんやりしていた意識がMr.チャンの声で一気に現実に引き戻される。

「み、Mr.、いつからここに…?」「心配しなくても30分も待っちゃいないさ。」30分近くも待たせたという事だ。

私は慌てて起き上がろうとし、Mr.チャンにそれを止められた。「そのままでいい、どちらにしてもすぐにまた出なけりゃならないからな。」そんな忙しい中、30分も待たせたのか。ああ、自己嫌悪が酷くなる。

「す、すみません、つい、飲み過ぎてしまって。」「いいさ、飲みたいときは飲めばいい。ロックと飲むのは楽しかったかい?」少し含みがあるような気がしたが素直に楽しかったが調子に乗りすぎて今自己嫌悪の真っ最中だと告げた。

Mr.チャンはまたあの独特の笑い声を響かせた。「なるほど、君はロックと仲が良いんだな。部下からまるで痴話喧嘩のようだったと聞いたよ。」はたから見ればそんな感じだったかもしれない。心なしかMr.チャンは少し不機嫌に見えた。

ふいと隣の部屋へ行きどこかに電話をかけて、Mr.チャンはコートを脱いだ。「少し時間を作った。すまないが、付き合ってもらうよ。」そう言いながらネクタイをゆるめ、ベッドにやってきて、私を抱いた。

いつもより性急に乱暴に。時間がなかったせいなのか、わからなかったが、私はいつものように慣れることのできない快楽にMr.チャンにすがって泣いた。

「すまなかったな。」事が終わるとMr.チャンはそう言った。服装を整え、またどこかに電話をして「また連絡する。」といつものセリフを残して部屋を出て行った。

あれから、1週間が過ぎ、Mr.チャンからは何の連絡もなかった。自己嫌悪を引きずってもう飽きられたかと思いつつ、私はトレーニングルームに向かった。

この1週間、自己嫌悪を振り払うように身体を鍛え、銃の打ち方を学んだ。心が弱くなるなら、せめて力が欲しかった。

人の急所を学び直し、的確にそこを撃ち抜く。拳でも、銃でも同じ事だ。躊躇いなく、容赦なく、ただ撃ち抜くべきまとを外さないことだけを考えて。

トレーニングをしていると何も考えずに済んだ。闇雲に鍛え疲れ果て眠る。そして目が覚めたらまたトレーニングをして日々を過ごした。

Mr.チャンからの連絡があったのはその3週間後のことだった。

「やあ、元気にしていたようだな。」約1ヶ月振りに電話で聞いたMr.チャンの声はいつも通りだった。

「はい、問題なく過ごしています。」そう言うとMr.チャンは少し笑って「会えなくて寂しかった、とは言ってくれないのかい?冷たいな。」と言った。そして「俺は寂しかったぞ?」とからかうように付け加えた。クソ野郎。

「もう飽きられたかと思って心配していました。そうでなかった様なので安心しました。会えなくて寂しかったです。今日は会って下さるんですか?」ヤケになって言った。

Mr.チャンはいつもの笑い声を電話口で響かせ「ああ、今夜は君のところに行く。時間もたっぷりとってある。久しぶりにゆっくり君と過ごしたいものだな。ではそのための仕事を片付けてくる。いい子で待っててくれよ。」そう言って電話を切った。

今夜、というのは何時の事なのか。電話があってから少しも落ち着く事が出来ず、トレーニングにも身が入らない。集中出来ない時はやめるべきだ。

時間はまだ15時。何をして過ごせばいいのか。トレーニングルームから出てシャワーへ向かった。化粧をするべきか、何を着るべきか、どんな顔で会えば良いのか、グルグルとくだらない事ばかり考えてしまう。

世間の人というのはこんな感情を普通に受け入れて生活しているのか。そう思うと彼らがとても強く感じられた。

受け入れるしかない、これは、恋なのだ。私は、あの男にどうしようもないほど恋している。

ああ、勘弁してくれ。恋だなんて。私が恋だなんて、気持ちが悪い。酷く気持ちが悪いが認めるしかなかった。

私は髪を乾かし化粧をして、Mr.チャンに買い与えられた服を選び身に付ける。サイズがぴったりすぎて、なんというか、厄介な男に惚れてしまったものだと感じた。

何度も時計を見ている。まだ18時半、Mr.チャンの今夜、には早過ぎる時間だ。深呼吸して目を閉じる。

受け入れろ、受け入れろ、それしか先に進む方法はない。その先がどんなものでも、こんな風に同じところをグルグル回っているのは、自分が一番許せないのだから。

20時を少し過ぎた頃、Mr.チャンが部屋を訪れた。思ったよりも早い時間だった。

「やあ、待たせたかな?」出迎えるとMr.チャンは少しおどけてそう言った。久しぶりに会って改めて思う。完全に惚れきっている。会えただけで胸が痛い。

「思ったよりも早い時間です。でも、電話があってから、いえ、1ヶ月間、ずっと待っていました。」私がそう言うと少し驚いたような顔をして私を見つめた。

本当に世間の人というは強い。こんな事を何度もやっているのか。会いたくてたまらなかったのに、逃げ出したい。

「そいつはすまなかったな。まさか君からそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ。一体なにがあったんだ?」Mr.チャンはコートを部下に預け、部屋の扉を閉じる。

「特に、なにも。ただ考えていました。貴方のことを。」私がそう言うとMr.チャンは私のすぐ目の前まで来て、突然私を抱き上げた。

「み、Mr.⁉︎あの、なにを…」驚く私にMr.チャンは「何をも何も、君は何もわかっちゃいない。俺はこれでも随分と君に遠慮していたんだ。そのタガを自分で外しておいて今更何をうろたえている?」真っ直ぐ私を見つめて言うとベッドルームに歩き出した。

「今日は手加減してやれそうもない、いや、するつもりがない。」Mr.チャンはベッドで私に馬乗りになり、ネクタイをゆるめながらそう言った。

怖くなって逃げ出そうとした私を乱暴に押さえ付けて「その服、思った通り良く似合っている。脱がせるのが楽しみだ。」初めて見る顔で笑ったMr.チャンは口内を犯すような激しいキスをして服の上から身体をなぞると胸をはだけ下着を剥ぎ取った。

首すじに降りていったMr.チャンの唇が赤いあとを残していく。両手で胸を揉みしだかれ、それから逃れようと身をよじるとその動きに合わせて後ろから抱きかかえられるような体勢になった。耳元でMr.チャンが囁く。

「逃げようとするのはかまわんさ。だがそれが叶うとは思わない方がいい。」後ろから胸を嬲られすでに涙が溢れて止まらない。不意にMr.チャンが首すじを噛んだ。

「っあっ⁉︎あぁっ…!」痛みとそれだけではない感覚に声を上げるとクツクツと楽しそうに笑った。「やっぱりそうか、君は痛みも快楽に出来るタイプだよ。」胸を揉みしだく力が強くなる。涙と声が止まらない。

スカートの中に手を入れ下着の上からそこを触ったMr.チャンは「たったこれだけで、よくこんなになるものだ。」と下着を降ろしワザと音を立てて太ももまで濡れているそこを指で弄ぶ。

「少し早いが入れるぞ。なに心配しなくていい。今夜は時間がたっぷりあるからな。」そう言って後ろから一気に突き入れてきた。

「ひあぁっ!いやぁ…あぁっ!」背後から胸を弄びながら突き上げる。

「さあ、いい子だ。沢山泣いていい。君はただ泣いて、声を上げていればいいんだ。簡単だろう?」そう言って私が一番嫌がる場所を探し出しそこを執拗に責め立てた。ベッドの軋む音と水音と私の泣き声が部屋に響く。

「そうだ、上手に出来ている。いい子だな君は。」泣き叫ぶ私の頬に軽くキスをして、Mr.チャンは入れたまま体勢を変えた。片足を肩にかけ奥を突き立てられるように角度を変えると最奥に押し当てて何度も何度もイかされた。それでもまだ行為は終わりそうになかった。

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