R12→R18 km

□夜の濃淡に沈む (1)+
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放課後、真山先生の待っている数学準備室に向かう。
ノックして一声かけて扉を開ける。

「ようやく来たか。早く座れ。始めるぞ。」

先生の声に弾かれて急いで準備する。


・・・・・

…ようやく終わった……。
だけど、課題をたっぷり出された。
自分の成績を見れば、仕方ない事なんだけれど、この量はきつい……。

ため息をつきながら帰り支度をしていると、扉の側にいた真山先生が近付いてくる。
不思議に思っていると、先生が口を開いた。

「おまえ、先々週の日曜に隣町の本屋にいただろう?」

え…、隣町の……。
一ノ瀬先生と行った所だ。
どうしよう、もしかして二人でいるところを見られてた……?

「ほう。俺が言わんとしている事が解っているようだな。
 俺が見た事は、奴には黙っておいてやる。
 …だが……。」

先生が私の前に立って顔に触れてくる。
…え、何これ……。
こんな真山先生、知らないし、正直怖い。
どうしちゃったの、先生……。

「…そう身体を硬くするな。
 そうだな…、取り引きはどうだ?
 おまえと奴、特に奴の立場を守る為のな。」

取引?
一体何の事を言っているか解らないけれど、恐怖で声が出ない。
動けないでいる私の耳元で、先生が今まで聞いた事もないような低くて冷たい声で囁いてくる。

「俺が口を噤む代わりに、…俺の捌け口になってもらう。」

はけぐち?
一体何の事を言っているのだろう?
私がその言葉の意味を計りかねている事に気付いたのか、先生が続ける。

「そうだ。俺の捌け口だ。
 気が向いた時におまえを抱く。
 要するに性の捌け口だ。」

…抱く? 性の……?
え、ちょっと待って、私には好きな人がいる。

「…やっ、私、付き合ってる人がいる…のに…。
 何で、えっ…?」

目の前が真っ暗になりかけているところへ、先生が私の髪の毛を弄びながら、今まで見た事もないような冷たい笑みで私を見ている。

「何も、奴と別れろとは言っていない。
 俺が呼んだ時に来ればいいだけだ。
 どうだ、悪い話ではないだろう?」

もう、訳がわからない。
一ノ瀬先生と付き合いながら、真山先生とそういう事をするって事?
考えたら混乱してきて、なぜだか鼻の奥がツンとしてきた。

「…真山先生と、その…、するって事ですよね……?」

何とか声を振り絞って、間違いであってほしいと思い、聞いてみる。

「まぁ、そういう事になるだろうな。」

…やっぱりそうなんだ。
だけど、何で、私なの?
先生の口ぶりは、私じゃなくてもよさそうなのに。

「…私がもし嫌、と言ったら?」

つい、言葉が出てしまったけれど、先生の顔がどうしても見れない。
男の人として好きでもない人とそういう関係になるのはどうしても嫌だ。

「…その時は、事が公になるからな。
 奴は社会的制裁を受ける事になるだろう。」

まるで他人事のように答える先生に、"酷いです!" と抗議の声を上げ、思わず睨み付けてしまう。

「だから、だ。これは契約だ。
 お互いの為に、…まぁ、ほぼ、奴の為だが。」

真山先生は微笑んでいる。
でも、それはいつもの温かいものではなく、冷酷ささえ感じる。
その整った顔立ちがより一層冷たさを強調しているようで。
一ノ瀬先生の為とは言え、他の人とそんな事をしてしまっては、裏切る事になってしまう。
何とかして一ノ瀬先生と私を守れるようにと、体の底から上がってくる震えを抑え込んでようやく尋ねる。

「…だったら、私が真山先生にこっ…、こんな事を言われた、って学校に言ったら……?」

なぜか先生の手が私の両頬を包む。
思わず背中にぞわっと鳥肌が立つ。
そのまま顔が近付いてきて、口唇が触れそうなところで止まる。

「学校内では厳格で真面目な教師で通している俺と、只の一生徒であるおまえの唐突な訴え。
 さて、学校側はどちらを信用するだろうな……?」

先生の言葉に、自分の無力さをまざまざと思い知らされる。
もう、このまま先生の言う事を受け入れるしかないの?
一ノ瀬先生を守るには……。
そう思ったら、涙が止まらなくなった。

「どうする? 俺はどちらでもいいぞ。」

もう逃げられないのかな。
一ノ瀬先生、助けて……。
でも、私が我慢すれば、先生だけでも助かる。
私はうなずく事しかできなかった。

「それは了承と受け取っていいんだな。
 さて。今日はまず、契約成立の手付けをいただこうか。」

手付けって? と疑問に思っていると、真山先生の腕がわたしの腰に絡みついてきた。
先生の腰と私のお腹かぴったりくっつく。
嫌だ、こんなの嫌だ。
何とか逃げようと上半身を捻ったりしていたら、頭の後ろに手を回されて動けなくされてしまった。
でも、どうしても逃げたくて、視線だけは合わせないようにする。
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