R12→R18 km
□夜の濃淡に沈む (1)
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今日は久々、丸一日の休日だ。
午前中はゆっくりと過ごし、午後からは本でも物色しようかと思い、今の時間は書店巡りだ。
折角なので隣町の書店まで足を伸ばす。
そこで彼女 ーー 俺が教科担任をしている2-A 梅原朱里 ーー を見掛けた。
この生徒は数学の成績が壊滅的に悪い。
だからか放っておけずに、つい色々と世話を焼かずにはいられない。
近付いて声を掛けようとした瞬間、梅原の側に一人の男がやってきた。
……俺のよく知ってる顔だ。
高校の後輩で現在は同僚、2-A担任 ーー 彼女の担任の一ノ瀬学だ。
頬を寄せて一冊の本を読み始め、時折身体に触れ合ったりしている。
二人の距離感は、深い関係になっている者同士のそれにしか見えない。
「なっ…。」
絶句している俺には気付かず、仲睦まじい様子でそのコーナーから離れた。
俺は何故、こんなにも狼狽しているのだろうか。
我が校の教師と生徒が所謂 "不適切" な関係にある事実を知ってしまったからだろうか。
…いや、違う。それも少なからずショックではあるが、ここまで激しく揺さ振られる訳はない。
ーー そして気付いた。
俺の梅原朱里へのこの感情が、出来の悪い生徒に向けられる教師としてのものではなく、一人の男としてのものだった事を自覚し、衝撃を受けてしまっていたのだ。
・・・・・
まだ揺さ振られている頭と体を引き摺って、ようやく帰宅する。
ソファーに体を預け、ぼんやりと思考を巡らす。
相手が男子生徒だったのなら諦めも付く。
…何故、よりにもよって一ノ瀬なのか。
ならば何故、俺では駄目だったのか。
…何故……。
自問を繰り返すと、"奪い取っておまえのものにしてしまえ"、という声が聞こえてきた気がした。
俺は一人、高笑いした。
その狂気すら孕んだ音は、たった一人しかいない、俺の部屋で虚ろに響いた。