R12→R18 km

□花環を食い散らかしてみたいんだ(1)
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今日は職員研修の為、授業は午前中のみだ。
全部活動も禁止なので、早目に校舎から生徒を出そうと全職員で校舎を見廻る。

2-Aの前を通るとそこには、抱き合っている如月と彼女ー梅原朱里の姿があった。

「何をしているのですか。」

自分でも驚く程、冷淡な声色だった。
朱里の肩が思い切り揺れる。
そして慌てて如月から身体を離す。

「あっ…、先生、違うんです、これは…」
「いや、ちょっと…」

朱里と如月が咄嗟に何か言おうとするが、それを遮る。

「交際する事を止めはしませんが、そういった行為に及ぶ際は、時と場所を選びなさい。」

底泥のような醜い嫉妬が吹き出し、心の平衡感覚が崩れそうだ。
俺はいま、どんな顔をしているのだろう。
教師の顔を保てているだろうか。

「…いつまでも残っていないで、早く帰りなさい。」


それだけを言い残し、その場を去る。
勿論解っている。
朱里は浮気など出来るタイプではない。
余程の事情があったのだろう。
ましてや相手は幼馴染みだ。

"朱里は俺のものだ、誰も触るな。"

あの場でそう叫べたらどんなに楽だっただろう。
しかし、俺は朱里に高校生らしい恋愛を何一つ与えられていない。
かなり我慢をさせている自覚もある。

今迄、目を背けて見ないようにしていたこれらの事実を目の当たりにして、打ちのめされている。
今にも膝から崩れ落ちそうだ。

職員室に戻り、鏡を横目で見る。
…大丈夫だ。この仮面は剥がれていない。

俺はいつからこんなにも脆くなったのだろうか。
厳格で真面目な教師の仮面を被らなければ、感情の制御ができない程に。


やはり、恋をするなら同年代の中で過ごす事が朱里にとって幸せだろう。
俺の欲望だけで縛り付けておくのは、あまりにも酷だ。
一時の感情に流されて、朱里の貴重な時間を奪う訳にはいかない。
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