ロシアンシスターズ
□スパイ4
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「ゲームって?」
含んだ瞳でニコニコ笑うマスターを冷たく見返しながらミッチャは席に腰掛け聞いた。
「ゲームといってもただのブラックジャックですよ。
カードを交互にとっていき数字の合計が21により近いものが勝ち、21を越えればアウト!」
「ルールは知ってる。
で・そのブラックジャックをやって私になんのメリットがあるっていうんだよ」
「どちらかが酔いつぶれるまでやるってことです」
「酔いつぶれるまで?」
マスターは自分の後ろに並ぶ膨大なブランデーに目を向けると、
「これらは僕が生成した酒!そこらの酒とは違う。
飲めば幻影を見ちゃい何でも白状しちゃいたくなるんです。
ようはブラックジャックに1戦負けるごとに僕のお酒を飲んでもらうわけです」
「へえ…酒飲んで白状できることなら苦労しないな」
嫌味とも賛同ともとれる言葉でミッチャは返した。
「僕の作った酒の効果は実際飲んでから体感してください」
「罰ゲームがあんたの造った酒を飲むってのは分かったけど、ブラックジャックってイカサマをしない限り運試しだろ?
運なんかでここの秘密を賭けてるならあんたの雇い主は相当危険だな」
「それが楽しいんじゃないですか!」
ミッチャの問い掛けにもただ楽しそうに笑うマスターに、
「はいはい、じゃあさっさと始めよう…」
諦めたような顔でミッチャはゲームの開始を待った。
「まずはポニーさん、あなたからここにあるお酒を1つ選び好きなだけグラスについでください。
以後は交互にお酒を選んでいってもらいます」
「あ、そうやってやってくわけね」
ミッチャはマスターの背に並ぶ膨大なお酒に目をやると、
「選ぶっつってもあんたの造った酒しかないんならどんな効果かはあんたしか分かんないじゃん」
そう愚痴をこぼしながらラズ・ベリーと貼られたラベルの酒を指指した。
「OK」
マスターはすぐにお酒をとると栓を抜きミッチャに渡した。
そして手に取りグラスに容赦なくぐいぐい注いでいくミッチャの姿をみつめながら、
「あくまでゲームは運試し。自分も負けて飲む可能性もあるんですからそれもお忘れなく」
分かってるよ、と言わんばかりの顔でグラスいっぱいになったところでミッチャは注ぐ手を止めた。
「へえ…もっと慎重にいくかと思ったのに一気にいきましたか」
「ちまちま進めたってしょうがないだろ?
もちろんまだ私はあんたがイカサマをやらないとはこれっぽっちも信じてないからカードも私がきらせてもらうよ」
「もちろんそのつもりでした」
マスターはポケットからトランプカードを一束取り出すとミッチャに渡した。
カードに不審な点がないか一通り目を通すと、
「どうやらカードに細工はないようだな…」
そう言ってカードをきりはじめた。
「じゃ、早速いくか」
カードをきり終えカウンターの真ん中に置くと、ミッチャから順に1枚ずつカードをとり中身を確認した。
3と8
(まだいけそうか…)
トランプの束からまた1枚とる。
今度は7。
合計18でミッチャはストップをかけることにした。
続いてマスターも1枚とると、
「ブラックジャック!」
そう言って手札をテーブルの上に広げた。
Aと10
Aは1、または11としても数えられるので合計21。
マスターはニコニコしながら、
「僕の勝ちですね。ではどうぞ」
先程ミッチャが注いだラズ・ベリーのお酒をミッチャの目の前まで持っていった。
「ち…」
(しょっぱなからブラックジャックかよ…ほんとに運だけで勝負してるのか?)
そう怪しいと感じながらも、しかしマスターに不審な点はなかった。
仕方なしにグラスに手をかけるとミッチャは一気にお酒を飲み干した。
これでもミッチャはお酒に強い…
ロシアンでは18までお酒は禁止だったが、アルコールに免疫をつけるスパイ特訓もあってか、そこそこアルコールには自信があった。
ラズ・ベリーのお酒を口にしたミッチャはマスターの言う幻影とやらがどんなものか気になったが、しかしその幻影とやらはいっさい現れなかった。
「あれ?」
そんな顔色1つ変えないミッチャをいぶかしげな顔でマスターはみつめた。
「で・あんたの言う幻影って奴は出てこないんだけど?」
変わりに強気な態度が返ってきたのでマスターは驚いた。
「あんた…!まさかその歳で初恋の1つもしたことないのかよ!!」
「はぁ???」
いきなり飛んできたマスターの言葉に今度はミッチャが驚く。