ロシアンシスターズ

□スパイ3
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日も落ちかけ、外はすっかり赤く染まる。

窓から差し込む日の光が蛇のオブジェを赤く照らした。
朱色に輝く蛇達は今にも動き出しそうなくらい妖しく、不気味だった。

ミッチャは中央のテーブルにパソコンを置くとメールを打ち始めた。

メール相手はマドカ。

『無事官邸内に着いたっス』

そう入力し送信する。
2分もたたぬ間に返事がきた。

『りょうかーい!
じゃあ続けて任務をお願いねー。
君の検討を意のってる。
Good Luck!』

(脱字多いなー)

決して自分も頭が良いわけではないがマドカのメールを見てるとふと妙な自信がわいてくる。
そんな物思いにふけっているとメールは自動的に消滅した。

メールを開くと1分弱で内容は全て削除される。
いわば証拠隠滅だ。
ミッチャはパソコンを閉じると夕飯のコールを待った。

(それにしてもカメラも盗聴器もないってのは意外だったなー)

部屋に入ってからそれら盗聴器類を隈なく捜したわけだが、そんなものは一つも見つからなかった。

(まあないに越した事はないんだけど、スパイが多いと言ってたわりに警戒が甘いというか何というか…)

そんな事を考えながらも夕飯を知らせるコール音は鳴り響いた。


「おー!やった飯だ飯!!!」


こんな不気味な場所でも飯は飯。
腹が減っては戦もできない。
ミッチャはパソコンをしまうと食堂へ急いだ。

食堂は2階の酒場のすぐ隣にあった。
入るとすぐ席に案内され椅子に腰掛けた。

大勢の管理官に囲まれながらディナータイムが始まるとミッチャは辺りをキョロキョロ見回した。

(いない……あいつでも、こいつでもない…
ゴワンズ卿の顔は知っている)

マドカから当然写真は見せてもらってる。
しかし食堂には長い口髭、面長で目付きの鋭い、おでこに黒い痣をもつゴワンズ卿の姿はなかった…

表舞台から姿を消したと聞いてたがまさかこんな内部で、しかも他国から視察で足を運んできてる設定という中で、ディナータイムにも顔を出さないのはどこか異様に感じた。

「ポニー様」

突然ミッチャの後ろで聞き覚えのある声。

ドク=スネイクスだ。

「誰かお探しですか?」

「ああ、ちょっとね…」

考え込みながら答えたものの、
「んーやっぱ聞いておこ。ゴワンズ卿の姿が見えないんだけど彼はここにはこないの?」
すぐそう聞き返した。

「はい…我が祖国の友、ロシアン王国から参られたポニー様に対しまことに申し訳ございませんが…
ゴワンズ卿はこちらで食事をとられる事はございません。
いつもお1人でおとりになられるからです」

「ええと…それは昔から?」

「あの…昔というと…?」

「家族とも一緒に食事をとらないの?」
「ああ、そういうわけではございません。
ゴワンズ卿は家族にとても優しい方です。
家族が亡くなられてからです。こうやって自室にこもられて食事をとられるようになったのは…」

(家族…そういえば3ヶ月前に奥さんも子供も原因不明の病で亡くなったって聞いたな…
しかもゴワンズ卿が政治の舞台から消えたタイミングとほぼ同じ…
何か裏がありそうだな)

「スネイクスさん、どうもありがとう。
ただ視察に来た以上ゴワンズ卿にいずれ挨拶したいと考えてるんですが…」

「それは分かっています。ただゴワンズ卿は今重大な研究に追われている身。彼の研究の支障になるような真似はできない。
会うか会わないかは彼が決めます…」
「挨拶…それだけですよ?」
「今おっしゃったでしょう。それは全て彼が決めること。この国に来た以上ゴワンズ卿のルールに従ってもらいます」

「そうですか…なら仕方ないですね」

そう言ってミッチャは目の前のチキンにかぶりついた。

「すいません…いずれご対面できる時にはこちらからご報告いたします」

そう言い残しスネイクスは早々に去っていった。

(いずれ、か…そんな日来るのかな…)

食べる手を進めながらミッチャはふとそう思った。

(やっぱこっちから会いに行くしかないか…)

そう切り替えるのに時間はいらなかった…。


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