思い出

□川べりに立った遠い日
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「あ、今お茶を・・・」


まだ若い母の姿


それは、母が結婚した当日のこと
快活で明るく、働き者だった彼女は
嫁いだその日に、まだなじみのない
自宅で、祝いの客や
身内に気配りを見せていた


だが、世の中には
そういう姿を良しとせぬ男性もいて・・・


「ほう、この嫁はもう、この家を
取り仕切るつもりらしいな?」


冷ややかな笑みを浮かべて
そう言ったのは母の義理の兄に
当る人物だった


女は静かに男を立てるもの
そういう主義だったのだろう


母は情けなさと不安を抱えたまま
その後も黙って立ち働いた


そうするしかなかったのだ
その家には他に客をもてなす様な
人間は1人もいなかったのだから・・・



「本とに情けなかったねぇ・・・あの時は・・・」


夫となる人もかばいなどしない
泣きつく相手もいない


そんな結婚だったと
今は懐かしいだけのように
呟いた



そして、その日から
母の辛く悲しい日々が
始まったのだった・・・





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