本家の短編集
□ただ零(ゼロ)に ただ透(す)けて
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『やーい!零(れい)なんて変な名前〜!変なヤツ〜!』
『なんだと〜!?』
零という僕の名前をからかったのは、いつもいじっめてくる男子だった。
降谷 零―。
親がどんな思いで付けたかなんて、僕は知らなかった。
いや、知る必要なんてなかった。
『零くん』
いつも優しい声で僕の名を呼んでくれた先生が大好きだったから。
先生に『零くん』と言われると、とても素敵な名前に思えてくる。
そんな風に言ってくれるのは先生だけで良かった。
『零って呼ぶな!』
そう同級生に言ってみると、次の日から呼ばれたあだ名は『ゼロ』だった。
零(れい)―
0(れい)―
ゼロ―。
毎日毎日ケンカして帰ってくる僕を、少し呆れながらも手当してくれる先生。
『もう会えないね、零くん』
あの時の先生の寂しそうな顔は、僕の脳裏にしっかり残っている。
―…さん。
―…やさん!
降谷さん!
少しうたた寝をしていた僕を起こしたのは、風見だった。
風見もキュラソーにやられたケガで痛そうにしている。
「お疲れみたいですね。降谷さんがうたた寝なんて」
車の中で、風見は観覧車の中でのキュラソーの状態を報告していた。
「あのメガネの少年、一体何者なんですか?降谷さんのバイト先によく来るんですよね?」
「コナン君の事か。あぁ、そのバイトの2階が毛利探偵の自宅だからな。彼はそこに居候しているそうだ」
そうだ。キュラソーの遺体を確認する時にコナン君がある事を言っていたと風見が言っていたんだった。
『記憶じゃない。思い出だよ。…黒焦げになっちまったけどな…』
黒―。
その言葉が僕の胸にしみの様に染み付いた。