黒サガニ

□比良坂
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「サガはよくてあと2年だ…」
「あ?何か言ったか?」
「私の大半を持っていったが別れている以上死期は早いだろう」
例えば明日にでも風邪を拗らせてここに来るやもしれんと笑う。
「そうなのか?」
「例えだと言っただろう」
「…聞いてるよ」
「その時お前はどうするのだ?お前を死に到らしめたアヤツを前に…」
「振り返らず穴に向かうならそれでいいだろ」
もう、追いかける理由がないのだから。
「向こうが気付いたらどうする?歩みより、俺と混じり俺が消えてアヤツが残ったら…」
「そうだな…」
ぼんやりと上を見るとデスマスクは答えた。
「一発くらい殴ろうか。そしたら戻って来いよあんたが奪えばいい」
「フッ…消えたらと仮定したのに聞かぬやつだ」
サガはデスマスクを抱き締めた。



その時は―多分すぐに訪れた。流石に同じサガだけのことはあると言うべきか…


死者の列にありながら自我を残したサガは、列から外れた場所に佇む人影を見付けた
己の半身と数年前に手に掛けた蟹座だった
「贈り物は気に入って貰えたようだな」
「ものは言いようだな…俺の為だというのか」
「私の為だが…お前もまた私だ」
そう言って悪びれる風もなく笑うサガの顔を、
デスマスクは知らない
かつてのサガにはない感情の混じるそれは、隣に立つ黒髪のサガに似ていた
「……しかし貴様がまたカノンを置いてきたのだけは気に食わん」
暗にデスマスクを寄越した事に感謝していると告げながら、サガを責める
「ああ…それだけが悔やまれるが、それが私に課せられた咎なのだろう」
スニオンでも教皇を演じていた時も冥府から戻った時も、カノンより先に逝った
「次こそはと思ったけれど」
涙こそ流れないものの、その顔には言いようのない陰りが沈んでいた
(反則だぜ…絶対に殴ってやるって決めてたのによ)
デスマスクはやり場なく握り締めた拳を無理にひらくと隣の黒髪に絡めた。
微かな震えがデスマスクから伝わる。自覚しているのかどうか定かではないが、怒りを失ったデスマスクは困惑し得体のしれない白金のサガを怖れている。
(まぁ確かに今の俺には損はないようだ)
喉の奥に込み上がる笑いをサガは呑み込んだ。



時間の経過がよくわからないまま二人で過ごしたある日、懐かしい魂たちが見えた。
「シュラ!アフロディーテ!」
デスマスクは思わず駆け寄った。
『デスマスク!』
気が付いた二人が列を離れてデスマスクに抱きつく。「やはり残
って居たのだな!根性が悪い」
涙を浮かべながら悪態をつくアフロディーテ。
「相変わらず人を驚かせるのがすきなようだが、元気そうで何よりだ」
アフロディーテの前だと言うのに瞼や頬に唇を押し付けてくるシュラ。
「何で二人同時に死んでんだよ!」
嬉しさに戸惑うデスマスクに二人は共犯の笑みを浮かべるだけだった。
「賑やかになったな…」
いつの間にかサガがシュラの後ろに立っている。
「お久しぶりです…教皇」
涙のあとも拭わず不敵にアフロディーテが挨拶をする。
「デスマスクと居てくれて有難うございます。こいつは寂しがりだから…独りで留まっていたらと心配していたので…」
「嫌味か山羊」
サガがシュラを睨み付ける。
「教皇…深読みは不要です。そんな芸当が出来ていたらもう少し―…」
「フォローになってないだろアフロディーテ」
デスマスクが笑う。
「まぁ良い。コレが嬉しそうなら今はそれでよい」
眉をあげてみせるサガにアフロディーテがほころぶ。
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