人馬

□誰がために〈朝〉
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任務を終えたデスマスクは帰還した。出発前とは違い慌ただしく落ち着きのない聖域がデスマスクを出迎えた。
「デスマスク様!」
雑兵が駆け寄り、いきさつを話してくれた。
昨夜、アイオロスがアテナを手にかけようとしたことを。教皇がそれを阻止し、死体こそあがらなかったがシュラが見事反逆者であるアイオロスを討ったことなどをざっくりとだが話してくれた。
「それは本当なのか?あのアイオロスが…」
何故帰還して間もないアイオロスがアテナの元に行ったのか。年老いたからと次期教皇を決めたはずの教皇が止めにかかったにも関わらず無傷でいられたのか。何故降誕されたアテナを神殿の奥に閉じ込め、教皇しか拝謁できないように仕立てたのか…こじつけのような理由が山と並んでいる。
しかし、知らぬものからすればどれも納得がいくものであるから不思議なものだ。
当然だが皆、教皇を信じ、アイオロスが血迷ったと口にしている。
そして数日前から行方知れずのサガが居てくれたならと嘆いている。
サガの失踪後突如増加した聖闘士の遠征が射手座ショックに霞んでいる。
(混乱に乗じてってやつかよ…死人に口無しとか思ったら大間違いだぜ?)
真実をデスマスクは知っていた。その
時ちょうど積尸気に居たのだ。
積尸気では少なからず巨蟹宮の…いや12宮とその奥の神殿までにある小宇宙を感じとれる。いや…感じ取ろうと思えば何処からであっても感じられる。生と死とは常に隣り合っているのだから…
不穏な小宇宙と戸惑うアイオロスの小宇宙。瞬間アイオロスの小宇宙が12宮から離れるのを感じた。嫌な予感に胸が締め付けられた。
だからデスマスクは積尸気からアイオロスの小宇宙を追った。アイオロスの小宇宙だけを…そして見つけたのだ、瀕死のアイオロスを…

彼は今主人の居ない巨蟹宮の寝室に居る。そして昨夜その口で教皇の正体と悪事を語った。
幸いサガは行方不明を装うが故に双児宮には寄り付かない。つまり隣―とはいえかなりの距離だが―の宮など構いはしないだろう。
よもや真実を知るアイオロスのその魂を隣の宮にとどまらせているなど、昨夜のうちにその罪がその宮の主人に知れているなど思いもよらないだろう。
デスマスクは腹に秘めた思いとは別の驚愕の表情を浮かべ、教皇の元へ急いだ。
巨蟹宮もすっ飛ばす。立ち寄るような事態ではないからだ。聖域が今内部から崩壊しようとしているのだから。
(゛今″ではないんだがな)
内乱は既に始まってい
たのだ。火種を蒔いたのがサガを選ばなかった教皇であったのかは分からない。
多分自分が感じていたサガへの違和感―双子座のサガが皆に天使だ神だと言われ始めたその頃から感じ出した違和感―はサガが決して清らかではなく、むしろおぞましい執着や闇を秘めて底知れぬ恐怖だった。
あれを教皇が感じたゆえにアイオロスを教皇にと指命したのかもしれない。
サガの闇が表に出たきっかけはそれであったとしても、きっと遅かれ早かれこうなっていただろう。選ばれたのがサガであったとしても…だ。
『きっと教皇にはサガがなる』
ふとシュラと自分が聖衣を与えられた日のアイオロスの言葉が思い出された。
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