黒サガニ

□薬より貴方を
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感覚は遠いが、腕につぷりと何かが入りこみ、冷たい水が侵入するのは、他人事のようであるが理解出来た。
波紋がじわりじわりと拡がり、血生臭さは変わらぬまま、人物だけが変化する。
嵐の薔薇の中、血の海をひろげる友はアフロディーテだ。
聖衣を纏わず、天高く昇る龍が喰らっているのはシュラだ。
涙の河に、教皇と同じように空っぽになった左胸をさらすサガ…。
ひやりと刃物の気配が身を辿る。
「う…あぁ、あ゛ァ…!!」
凍てつく床に機能の全てを氷らせた赤い髪を見た瞬間、デスマスクは叫んだ。体に風を感じる。黄泉比良坂を落下していく自分。その上から飛び降りてくるシュラ、カミュ、アフロディーテ、そしてサガ。
「来、んじゃ、ねぇ…!」
制御不能に小宇宙が爆発した。



キィンと澄んだ音で鳴る蟹の声に、デスマスクの意識は目を冷ました。
聖衣を纏う身には、当然ながら枷もなく、鎖の音もない。
何より辺りには生ける者が出す音がない。
ほどなく追いついた視覚。目に飛び込んだのは瓦礫と言うよりはクレーターのような更地。自分を中心にそれは広がっている。
ガクガクと脚が震えるのは、この景色からではない。
聖域の真実を知る大切な共犯者と主犯者の死の姿
に、何故かひとり混ざっていたカミュの姿を思い出し、デスマスクは膝をついた。
砕けそうなほど脈打つ心臓に滝の汗。吐き気がするのは直接的に薬のせいか、今見た夢の影響か。
「あぁ、サガ…に…絞ら、れる」
荒い息を抑え込み、聖域に移動したデスマスクは、無人の白羊宮の前に戻った。
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