人馬

□誰がために〈序〉
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「俺もアフロディーテも…シュラに遅れはとっちゃいねぇよ。それともあんたはこのままほっとくつもりかよ!なら何で俺に話した!」
苛立ちを隠さずデスマスクはアイオロスに叫ぶ。
「アイオリアはどうすんだよ!アイオリアは女神暗殺を企てた男の…反逆者の弟のレッテルを貼られるんだぞ?まだ幼いアイオリアがシュラを恨むのはもう避けられないとしても…今から真実を知ってシュラが傷付いたとしても…今すぐサガを殺して過ちを正せばアイオリアが責められることは無いんだ!シュラは俺たちがいくらでもフォローするし、アイオリアをあんたがフォローすれば済むだろう」
サガを殺せないなら、真実を言えないならどうすりゃイイんだよとデスマスクが涙声になる。
―人馬宮に行ってくれ…今でなくていい…アテナがいますこし大きく成長なさるまでに、女神に導かれし少年がこの聖域に来るまでに―
ゆっくりとアイオロスが語る。
―私を連れて人馬宮に行ってくれ―
当たり前だが生気のない瞳に真っ直ぐに見つめられ、デスマスクは息を呑んだ。いや…いつだってアイオロスに見つめられると胸がざわついたのだけれど…
「…わかった…この混乱のあと、サガが教皇として聖域から離れたら…一緒に行こ
う…」
固く口を結ぶと静かにデスマスクは目を閉じた。頬に涙が筋を作る。
沸き上がる感情を殺すように呼吸を整えて、デスマスクは目を開いた。
そしていつものような笑顔を顔に張り付けた。
(力こそが正義だ…いつだって歴史がそれを語っている…だが、正義か悪か…その定義は時の流れによってかわるんだ。今は老いた教皇にかわり、赤子たるアテナを排除したサガが正義の名を使えばいいさ。だが…幼き黄金たちが成人する頃…アテナが俺たちかアイオロスくらいにまで成長した頃には…)
アイオロスにばれないように、小さくちいさくデスマスクは喉の奥で笑った。
(せいぜい今を満喫しとけよサガ!)
その笑顔は少しだけ歪んでいた…


これが神に叛く行為だろうと俺はかまわない。


いずれ女神にすら見はなされようとも

倒すべき敵と認識されようとも………









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