*シナリオ*

□『ーーごめんね、板橋くん。』
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愛結原(N)
「時々、過去の夢を見る。
ーーあの頃に戻れたらどれだけよかったか。
あの時、素直になれていたら
あの時、逃げていなかったら
あの時、私も好きだよって伝えていたら
どうなっていたのか?
過去に戻れるなら戻りたい。
後悔しても遅いって分かってる。
偽善者だって分かってる。
それでも私は、過去を引きずって生きていく。大切な何かを忘れて、でも忘れたくなくて、心に空のボトルを抱えながら……」


愛結原(タイトルコール)
「ーーごめんね、板橋君」


【ーー現代】


男子生徒A
「愛結原先生!好きです!」
 

愛結原
「ごめんなさい」


男子生徒A
「どうして!?こんなに先生が好きなのに!やっぱり僕が未成年で学生だからですか!?」


愛結原
「その通りよ。それに…もっといい人はたくさん居るはずよ?私おばさんだし」


男子生徒A
「愛結原先生はおばさんじゃないよ!可愛いし、話してると楽しいし、芽衣ちゃんじゃなきゃ嫌なんだ!芽衣ちゃんを見てると目が離せないし、時々別人みたいっていうか寂しそうっていうか…すごく守りたくて…!」
(愛結原先生遮る)


愛結原
「はーい、そこまで!あんまりしつこいと嫌われちゃうぞ〜?若いんだから、他のことにも目を向けなさい!
好きなことをして輝け少年!
あと、芽衣ちゃんじゃなくて『先生』!ふふっ、じゃあね〜♫」


男子生徒A
「せ、せんせぇっ…!」


愛結原(M)
「その場でしゃがみこむ男子生徒を置いて、次の授業に向かう。
…告白、これで何人目かなぁ…。
職員室の机の引き出しや教員用靴箱にラブレターがびっしりと詰まる日々。
女の子だったり、男の子だったり、男性職員だったり、はたまた教頭先生だったり…。
人気なのは嬉しいけど、それは『愛結原先生』が人気なのであって、
『私』ではない。本当の私を知ったらみんな離れていく。だって、本当の私は……」


【ーー学生時代】


板橋
「愛結原ー!一緒に帰ろうぜ!」


愛結原(M)
「同じクラスの板橋君。出席番号が近いことから仲良くなって、席も隣になることが多い。話してると楽しくて一緒に居ることが当たり前になってい  た」


板橋
「お前また告られたんだってー?」


愛結原
「ちょっ!なんで知ってんの!?」


板橋
「友達から聞いた。男子体育でも部活でもお前の話で持ち切り!本当よくモテるよな〜。で、付き合うの?」


愛結原
「何急に?」


板橋
「いやぁ?どうなのかな〜?と思って」


愛結原
「どうって…断るよ。今は恋愛よりも、もっと他にやることあるし」 


板橋
「さっすが〜!言うことが違うね!
よっ!みんな大好き!マドンナ芽衣ちゃん!」


愛結原
「ちょっと…やめてよぉ!そんなんじゃないって!ただ…」


板橋
「ただ?」


愛結原
「…恋愛とか、そういうのよく分かんなくて…。友達ともそういう話にはなるけど、ついていけないんだよね…。
誰かの物になるとか想像つかないっていうか…そんな感じ」


板橋
「…そっかぁ」
(残念そうに)


愛結原
「板橋君は?」


板橋
「へっ?」


愛結原
「好きな人とか居ないの?」


板橋
「…あー…、どうだろうね?」


愛結原
「えーっ!ずるいっ!私には色々聞いてきたのに!」


板橋
「内緒でーす!アイス奢ってくれたら考えるかも?」


愛結原
「なにそれー!板橋君のケチ!」


板橋
「っはは!」


愛結原
「っふふふ!」


愛結原(N)
「帰り道、二人で過ごすこの時間が心地良くて、かけがえのない時間になっていた。コンビニでアイスやお菓子買ったり、自販機でジュース買って公園に寄ったり…。
今日は何するのかな?何話そうかな?って考えながら自転車を押す。
他愛ない話をして、くだらないことで笑い合う日々。…悲劇が起こるとも知らずに」


凪紗(芽衣の女友達)
「芽衣ってさ、板橋君のこと好きなの?」


愛結原
「…え?」


凪紗
「いつも一緒に帰ってるし、好きなのかなーと思って」


愛結原(M)
「男女=カップルって定義が苦手…。
どうしてそうなっちゃうんだろう?
友達じゃ駄目なの?
ただ、一緒に居るだけなのに…」


菜月
「板橋君は…、芽衣のこと好きだと思うなー」


愛結原
「…なんで、そうなるの?」


女友達
「は?なんでって…、芽衣知らないの?」


愛結原
「…??何を??」

 
凪紗
「はぁー…、鈍感過ぎ」


愛結原
「??」


凪紗
「あのね、板橋君てすごいモテるんだよ?
告白される度に好きな子が居るからって断ってるみたいだし、その好きな子って絶対芽衣のことだって」


愛結原
「でも…好きとか言われたことないよ…?本当に普通に話してるだけだし…。それに好きな人が私って決まったわけじゃ……」
(凪紗に遮られる)
 

凪紗
「もーっ!馬鹿!鈍感っ!!!」


愛結原
「なっ、何急に!?」


凪紗
「これだから鈍感は困るわぁ!!
肝心な想い人がこんなんとか、
板橋君が可哀想過ぎて見てらんない…。
もう、この際だからハッキリ言うね。

私…板橋君が好きなの」


愛結原
「…え?」


凪紗
「気付いてなかったでしょう?
芽衣ってさ…、周りが見えてないよね。自分のことしか考えてない。
……芽衣が板橋君にその気がないなら、

私、板橋君に告白していい?」


愛結原
「……凪紗…?」


愛結原(M)
「まさか、凪紗が板橋君のこと好きだったなんて…知らなかった。
付き合うとか、男女とか、恋愛とか
本当に分からなくて…。
どうしていいか分からなかった」


板橋
「…ゆはら、愛結原!」


愛結原
「っ!」


愛結原(N)
「あっという間に放課後になって、誘われるまま板橋君と一緒の下校。
でも、私はずっと上の空だったみたいで板橋君が心配そうな顔をしていた」


板橋
「大丈夫か?…なんかあったの?」


愛結原
「……なんでもない」


板橋
「そっか、ならいいんだけど…」


愛結原
「ねえ、板橋君」


板橋
「ん?」


愛結原
「私達…、これからもずっと友達だよね?」


板橋
「……当たり前じゃん!」


愛結原(N)
「板橋君は、いつも通りの笑顔を私に向けてくれる。その笑顔を見て私は安心した。

ーー板橋君が、傷付いていることも知らずに。

ーー板橋君が、一瞬悲しそうな顔をしたことも知らずに。

ーー板橋君が、天国に行くとも知らずに」
 

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