反逆SS1

□◆二度と終らない物語
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「あれからもう5年ですね。いえ、5年しか経ってないと言うべきでしょうか」

「そうですね」

「やっと、ここまでこぎつけました。これからも成すこと、成さねばならぬことも多いですけれど。」

「Yes, Your Majesty.」

「貴方は相変わらずですわね。こんな夕食の時くらいはスザクとして居てくだされば良いのに…。仮面も外しては下さらないのですね」

「申し訳ありません」

「それはわたくしがまだ半人前だからでしょうか?」

「いえ、そうではありません…しかし」



そう、最初の1年目は反乱もわずかながらにあったし、なにより皆がまだ鮮明に“スザク”を覚えていたから
食事も私室で取っていたし、仮面は寝る時以外は外していなかった。

だけど、3年、4年と時が経つうちに一つ気がついたのだ。
俺だけ歳をとっていないことに。
学校を卒業して黒の教団に入団したカレンも、ニュースキャスターをやっているミレイさんも、もちろんナナリーも。みんなすこしづつ変わっているというのに。


『お前はまもなく仮面を外すことができなくなる』

C.C.の言葉を思い出す。
はずすことが出来ないのは、俺の時間だけ止まってしまったから、か…



「―――スザクさん?」

「申し訳ありません。陛下」

「いえ、大丈夫です…体調が思わしくないのでしょうか?今日はもう公務もありません。
どうぞ私室でお休みください」

「しかし・・・」

「これは皇帝命令ですわ。それに3日後に迫った黒の騎士団の武力放棄でのスピーチの準備もしていただかないといけませんしね」

クスクスと笑うナナリーに、仮面の下で笑い返す。

「Yes, Your Majesty. ―――ありがとうございます。ナナリー陛下」





私室に戻り、ドアにロックをして窓にシャッターを下ろす。
5年前と今では行動は同じでも意味は違う。
ゼロの素顔を隠すためではない。5年前と同じ俺の顔を見られないためだ。


突然携帯電話が鳴り、慌てて取り出す。
5年前からただ一人だけの連絡を待つためだけにとっておいた携帯。
非通知と表示されていたが、構わず通話ボタンを押す。



「久し振りだな。よく解約しなかったな。」

「キミから連絡がくるならコレしかないだろうと思ってたからね。」

「仮面は外せなかっただろう?」

「―――あぁ、そうだね。」

「明日、外に出てこい。会わせたい奴がいるんだ」

「あ、明日??」

「あぁ、ナナリーには武力放棄の前に各地をみたいとか、なんとか言っておけ」

「わかったよ。・・・ってなんで武力放棄の事知ってるんだ??」

「それも明日教えてやるよ。では正午に。場所は追って連絡する」


一方的に用件を伝えられてそのまま電話が切れた。
そのあとすぐにメールが届いた。
ブリタニアと隣国の国境線ぎりぎりの場所がそこには記されていた。





「陛下、一つお願いがあるのですが・・・」

「まぁ“ゼロ”。私室に戻られたのではないのですか?」

未だ公務室には明かりが灯り、書類の山の前でナナリーがペンを走らせていた。
その様子にさっきは気を遣ってくれたのだと少し胸が痛む。

「明日、お暇を頂きたいのですが…。武力放棄の前に少し各地を回ってみたいのです。」

「―――そうですね。3日後まで公務はありません。雑務ばかりですから、どうぞ心配なさらず今の世界を見てきて下さい」

「Yes, Your Majesty.」

礼をし、その場を辞退する。










C.C.に指定された場所に人影を見つけモニターで確認し、
予想外の顔が映し出されて慌ててランスロットから降りる。

「ジュレミア卿!!」

「よしてくれ、“ゼロ”。…いや、スザク。もう私は貴族ではない。ただの農夫だ」

「―――すみません。毎年美味しいオレンジをありがとうございます。皇帝も毎年喜んでいらっしゃいます。ジュレミア卿の作るオレンジは『優しい味』がすると。」


窘められても『卿』を使うスザクに苦笑が漏れる。

「ふぅ、君という男は…まぁ、良い。さて行こうか。」

「あれ?俺はここにC.C.に呼ばれて…」

「あぁ、それで私が迎えに来たのだよ」



歩いていると、鳥の囀りとともに微かに甘いオレンジの香りが漂ってくる。
そうか、ここは…

「このあたり一帯は我が土地だ。誰も入らないように決められた…な。」

心を読まれたようなタイミングで話しかけられてちょっと驚く。

「俺…変な顔してました?」

「あぁ。まったくキミは変わらないな。」


正義を重んじるあまり規律に殉じていたが
実直で、素直で、優しくて。
唯一にして、我が主の心を理解していた人物。






「あ。スザクだ。本当に来たのね。いらっしゃい」

「アーニャ!?」

屋敷の前で待っていたのは、美しく成長したアーニャ。
当たり前だけど、アーニャもジュレミア卿にも5年の歳月が流れたのを感じられる。



(俺だけ…なんだな。止まってしまったのは)



屋敷に入ると、今度は美味しそうな食事の匂いが鼻を掠める。
彼が皇帝だったころ良く食べていたシチューの、香りだ。






「我が主は2階にいる。行ってくるがよい。」

「―――はい。」



ジュレミア卿が『主』と呼ぶ人物は一人だけ。
一つの想いが確信にかわる。
螺旋階段を上りながら脚が震えるのがわかる。
正面のひと際大きなドアの前でしばし立ちつくす。
知らぬ間に力の入っていた拳に気が付き、深呼吸をして扉を開ける。

ギィときしむ音がして、ゆっくり扉が開いた。










ゆったりとソファーに寝そべっているのは5年前と変わらない姿をした
俺が確かに殺したはずの、


「ルルーシュ…」

「やあ、久しぶりだな。」

「キミは生きて…」

ふらふらと近づき、跪く。

「やめてくれ。もう俺は皇帝ですらないんだ。スザクが跪く必要はどこにも―――」

「それでも俺はルルーシュの騎士だから。」


ゼロの仮面をゆっくりと外す。
俺の5年前と変わらない顔を見つめると
彼の目が一瞬見開かれ、そして悟ったように微笑んだ。



「そうか。C.C.の刻が動いたのはお前に…。」

ゆっくりと手を差し伸べられる。
その手に恭しくキスをする。
変わらぬ忠誠の証として。永遠を生きる同士として。








fin







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