企画部屋

□プライべったー(夢女編)
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Kiss In Heaven U





「お忍びで遊びに来た人を後ろからつけて来ても、横に入られるとわからなくなる」ところから名付けられたと言われる横丁
確かに大通りに面していないこの通りは知らないと辿り着けない

目立たない雑居ビルの地下に、その店はあった
行く手を妨げるのは黒塗りの扉
緊張しながらこの扉を開けば簡単に世界は繋がり開かれる

カウンター席だけの、こぢんまりとしたバー
アンティークな照明は控えめで店内は仄暗い
一枚板のカウンターは幅がたっぷりしていて安定感があり、浮かび上がる木目が美しかった

一番奥のカウンタ―チェアに腰掛けてグラスを傾けているのは職場の先輩でもある明智参事官
凛とした佇まいはいかにも生真面目そうだった
私は真っ直ぐそこへ歩み寄る
私の姿を確認した先輩は少しだけ目を大きくした

「どうしたのですか?」

先輩がこう聞くのも無理はない
まさに私は今、雨の匂いを纏い髪は滴るほどに濡れていた

「急に――雨が」

今朝のお天気お兄さんを信じて傘を持たずに外に出たのだ
私は深く溜息をついた

「それはそれは。お天道様に嫌われてしまったのですね」

バーテンダーの人が無言でタオルを手渡してくれたのでお礼を言って受け取る
幸い濡れネズミにはならずタオル1枚で水滴をふき取れた

バーテンダーにタオルを返しながらお酒を注文する
初老と思われる紳士はシェーカーを手に取り手際良く材料を揃えシェークし、グラスに注ぐ
流れるような一連の動作は澱みなく鮮やかだ
まるで魔法を見ているかのようだと思う

私の手元にはサファイアマティーニ
青が好きだと伝えた私に明智参事官が教えてくれたお酒――ボンベイサファイア
それを使った優しい口当たりのカクテルを口に運ぶ



――くしゅん

小さくくしゃみをすると明智参事官は片眉を上げる
そして私の髪の毛を一掬いし、指に絡ませる
きっと未だに湿り気を残しているだろう

「ちゃんと拭きました? 風邪でも引かれたら大変です」

真顔の明智参事官
どうしよう
せっかくこれからなのにこのままだと帰ろうと席を立たれてしまうかもしれない
その時、お店の電話が鳴りバーテンさんがカーテンの奥へと消えた

この空間には私達2人きり
私は泣きそうな顔で口を開いた

「ならば、――明智参事官が温めて下さればよろしいかと思います」

まっすぐに彼の顔を見上げる

「明智さん……」

縋るような私の瞳に
明智参事官はほんの一瞬だけうつむきそして私の頬に手を添える

「私を、泣かせて下さい」

そう言うと彼の綺麗な指に唇を寄せ目を伏せる
そして私達はどちらからともなく唇を重ねあう
数秒重ね合わせては唇を離し、また重ねるを繰り返す

そのうち唇を離すのをやめ口を半開きにして舌を少し出し明智参事官の唇を舐める
そのまま舌を奥に入れると彼も同じように口を開き私の舌を受け入れ絡め合う

顔をゆっくり動かしながら祈るように、確かめ合うように




Fin
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