企画部屋

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高遠が顎に触れるのは何かよからぬことを考えている時だということを、明智は短くない付き合いのなかで早々に知った事実だった

ワインを勧めるのは、誰も幸せにならない芸術犯罪から少しでも高遠を遠ざけたいためだ



「貴方を逮捕するつもりはない。射殺する覚悟でいる」



ただ1度だけ高遠に話した決意に何1つ嘘などなかった

この部屋を高遠が去った瞬間から追う者と追われる者になる2人

明智が犯罪芸術家から足を洗ってほしいこと

しかし、今、足を洗ったところで死刑は免れないこと

ならばせめて明智が自分の手で命の灯を消したがっていること

色々気遣われていることを高遠は知っていた

ワインを飲めばアルコールと葡萄に酔いしれその間は犯罪計画のことを忘れられる

勧められたワインに高遠がわずかに口角を上げて見せれば明智の視線がほんの少し高遠の視線から逸らされる

明智の遠まわしの思いやりに高遠が気づいていることを、明智は高遠の口角の上がり具合で気づかされた

滅多に持たない恥じらいを腰とともにソファに沈めて明智は伺うように高遠を見る

普段の自信を湛えた様子とはうらはらに遠慮がちな視線に高遠は思わず目を細めた

そして高遠の普段の人を値踏みするような視線とはうらはらに優しさを纏った色に明智は瞳を伏せる

高遠の身体が傾いて明智の眼鏡をはずす

白い目元に影を落とす長い睫が、高遠の吐息に揺れた

間近に迫る高遠の気配に明智が答えるように顎を上げればお互いの唇同士が重なった

一声も発せられないリビングで2人の優しいキスが始まる


‘アナタがいてくれれば、仕事も楽でいいのですが’


‘犯罪を次々犯す貴方の姿を、目の前で見ていろというのか。ああ――その前にきっと私が引き金を引いている’


決して長くも複雑でもない、口に出してしまった方がはるかに簡単かつ明瞭に伝わる言葉を、2人は互いの仕草に探しあった

些細な瞳の動き、わずかな視線の変化に、相手の心の機微を汲み取る

目に映る相手の仕草が言葉ではない形で耳に流れ込み、無言の会話が成立する

有声会話に頼らない高度といえる技術でもって相手と意思疎通を図れることを嬉しく思えるほどにはお互い惚れあっていた

それほどまでに親しく、それほどまでに相手を見ているのだと実感できる瞬間が愛しかった

角度を変えながらも触れ合わせていただけの唇が徐々に重なる深さを増していく

唇を覆う高遠の熱に明智がびくりと肩を跳ね上げれば、高遠の腕がそっと背中に回された

テレビの音に混じる衣擦れの音が互いの背中にまわる腕の動きを教えていた
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